
欧州の原発管理体制−現状と課題
原子力発電定着のカギを握る施設管理体制。“1千万kW時代”を目前に控えて大規模実用化に果たすその役割は大きい。が、一方では稼働率と保守作業問題、人材不足など残された課題も多い。こうしたなかで欧州では自主管理の徹底、計画的な人材育成など独自の体制が確立されてきているという。果たして実態はどうか。今秋東電工業の木野村大三副社長を団長とする「ヨーロッパ原子力プラント維持管理システム実態調査団」が派遣されたのを機に、今回は同調査団に参加した工業開発研究所の水口哲主任研究員に各国、各施設を歴訪し調査に当たった印象などについてご執筆願った。
行き届いた維持管理 現状
9月のヨーロッパ旅行は快適であった。
ケルンからフランクフルトへ向かうバスの、車窓から見るローレライのあたりは、もう色づきかけていた。
木野村東電工業副社長を団長に、火力発電、原子力発電の保守・補修工事を業務とする会社の重役陣で構成された総勢16名で、ヨーロッパ4か国を16日間でまわり、9月24日帰国したばかりである。
まだ旅行の興奮と、時差ボケから完全に回復せぬまま、調査団の幹事をおおせつかった筆者が、調査報告書の中から、特に原子力関係者にお聞きいただきたい部分を抜すいしてみた。
最初の訪問国、イギリスでは、ロンドンの中央電力庁本部と、北海に面したティー川河口周辺の工場団地に建てられているハートルプール原子力発電所を訪問した。
ハートルプールは66万kW出力のガス炉2基を並べたツイン・リアクターで、1968年から建設が進められている。現在、建屋の工事はほぼ完成し、1号機の炉内工事が進められている最中だった。
次の訪問国、フランスでは、パリの電力庁本部と、パリの南方、バスで約2時間のところにあるサン・ローラン原子力発電所を訪ねた。
ラ・ロイア川が曲折した地形に設けられたサイトには、現在48万kWと52万kWのガス炉2基が発電している。その隣には90万kW級のPWR2基が、それぞれ1980年、81年運開を目途に建設が進められていた。
パリからスイスのチューリッヒに飛び、週末を過ごしてから、ベズナウ原子力発電所を訪問した。
ベズナウの原子炉は1、2号機ともウエスティングハウス社のPWRで、出力は同じ35万kWである。米国のヤンキーローと同世代の古いものだが、その維持管理は非常に行き届いているように思われた。それは、プラント内外のすみずみに至るまでちり一つないことからしても感じられる。
チューリッヒから西ドイツのミュンヘンに飛んだ。ミュンヘンオリンピック競技場を後にバスで約2時間、歌で有名なドナウ川に到着する。その川面に160メートルのクーリングタワーの影を映しているのがKRB原子力発電所である。
KRBには1967年から運転を続けてきた1号機、24万kW出力のGE/BWRと1976年建設が開始された、KWU社が誇る124万kW出力のBWR2基がある。1号機は昨年から約3年間停止する予定で、全面的なプラントの改善を行っている2号機のA、Bはほとんど並行して建設工事が進められており、クレーンが林立する中で、ユーゴスラビアの800人をはじめヨーロッパ各地からの出かせぎ労働者ら約2千百人が作業、現場には活気がみなぎっていた。
西ドイツでの第二の訪問地は、今回の調査旅行で、原子力発電所以外の唯一の火力発電所であるノイラ発電所であった。
デュッセルドルフからライン川に沿って南に下ると高名なルール炭田地帯に入る。その一角に総出力210万kWを誇っているのがノイラ石炭火力発電所である。
発電所の屋上に立つと、ほんの2キロメートルほど先方に露天堀の採掘場が見える。
「こんなに近いから石炭火力も今のところどうにか経済的採算がとれているのですよ」と、関係者は口をそろえて言っていた。
調査団の最後の訪問地は、フランクフルトにある西ドイツ電気事業連合会であった。
調査団の目的を汲み、電事連スタッフの他に、放射線問題研究者のクルーゲ博士、それに「放射線区」と呼ばれるオスター博士が、一行を迎えてくれた。特に西ドイツの放射線医療体制について、詳細に話を伺うことができた。
計画的な人材育成が必要 日本の課題
団員の多くは、発電所の保守・補修工事を業務とする会社の経営者という立場から、人材不足といういち様の悩みを持っていた。とくに、原子力発電所の場合、放射線被曝という問題を抱え、発電所からのニーズに十分応えられないのがわが国の現状である。
したがって、「ヨーロッパにおける人材の確保・育成はどうなっているのか」という課題が、今回の調査の一つの目的であった。
アメリカの場合、原子力空母や潜水艦を持つ海軍等で訓練を受けた、いわゆる原子力技能者が多くおり、彼らを発電所に使えるのだ、ということを聞いていた。こういった訓練システムのないわが国と似ているヨーロッパは同じ人材不足に悩んでいるだろう、と勝手に想像して行ったのである。
「人材の育成は、発電所の建設計画と合わせて行ってきた。その建設が遅れている現在、人材はありあまっているくらいだ」という。行く先々でわれわれの想像が全くくずれ去ったのである。
教育システムを異にするそれらの国々の育成方法をそのまま導入することはできないが、少なくとも次の点は学ばねばならないのではなかろうか。
(1)発電所を建てるに当たり、保守・補修要員が必要となることを認識し、人材育成を発電所建設計画に組み入れなければならない。
(2)例えばテクニシャン、エンジニアというように、技能レベルに合わせて適切な資格を与え、働く者たちに目標を持たせる必要がある。
(3)教育内容は、放射線防護から作業現場を熟知させることまで、安全に係わる基礎をみっちりたたき込み、各自で自主的な放射線被曝管理を可能ならしめる。
「これらはあまりにも理想にすぎない」ととられるかもしれないが、事実ヨーロッパでは行われているのである。
安全管理に積極姿勢 西独
われわれが訪れた発電所のオーナーが公営、もしくはそれに準ずる機関であったことにも関係していると思われるが、いち様に発電所の安全維持管理に対する積極的な姿勢が、言葉の端々にも、まだプラントのすみずみにも感じられた。
国からの規制を受ける前に、自分たちで自主的に安全維持管理をしていこうとする姿勢である。この最たるものが、西ドイツの技術検査協会(TUV)であろう。
TUVは日本でもよく知られているので詳述は省略するが、重要なことは、民間企業が独自に共同で設立し、国の援助は一切受けずに、しかも中立機関として、国からも企業からも、また多くの国民からも絶対的な信頼を受けて活動している。
発電所におけるTUVの役割は建設前の設計チェックから各種検査に至るまで、あらゆる安全性に関するチェックを政府に代行して行う。したがって、TUVのインスペクターは、建設中も、運転中も、定検中も、ほとんど発電所に常駐することになる、ということであった。
発電所の保安工事に対してもオーナーは積極的に取り組んでいるように思われた。
平常時メインテナンス作業には発電所のスタッフで、残業の必要性もなく十分にやっていけるだけの保守・補修要員を抱えているようであるが、タービンのオーバーホール等が含まれる定検時には、やはり外部からの応援を必要とする。
この場合、どの発電所も次のようなプロセスを踏んでいるようである。
(1)定検開始の6か月ほど前に保守・補修項目および作業工程を作成する。あまり間際では重点項目が不明確になったり、人材確保も含めて準備が不十分になる。
(2)必要な人材は、発電所内の従業員から確保し、特に放射能汚染区域内での作業には、プラントを熟知している従業員を可能な限り当てるようにしている。
(3)外部からの応援は、まず同系列の他の発電所に求め、それでも不足の場合は、各メーカーと定検ごとに契約を結び保守・補修工事を委託している。
独自の医療体制に重点 スイス
ICRPと同程度の国の許容基準や、ALAPの精神に基づいた社内基準があるにはあるが、基準や規定で縛りつけようとする傾向はみられない。
このことが顕著にみられたのはスイスのベズナウ原子力発電所であった。
例えば、管理区域の入口には誰も立っていない。これは「自主入域管理」と呼ばれるシステムで、作業員の入退域には誰の許可も必要とせず、退域時のフッド・ハンドモニターによる測定も、ポケット・チャンバーの読み取りも、各人の自由意志にまかされているということであった。
また、プラント内外のすみずみに至るまで、清掃がいきとどいていることからしても、「放射線被曝防護の第一歩は作業現場の整理整頓から」という基本が徹底しているからであろうと思われる。
今回の調査項目の一つである放射線被曝防護対策に関し、西ドイツの放射線医療制度について述べなければならない。
普通の医者が、3週間の特別な講習を受けることによって「放射線医」になれる制度がある。したがって、この放射線医を中心に医療体制が敷かれている。
例えば、従事者の年間被曝線量が0.5レムを超えると、その時点から2か月以内に放射線医の診察を受けなければならない。それが1.5レム以上になると、その時点での被曝の被害状況、原因、被曝者の健康状態、被曝歴などが詳細にチェックされることはもちろんのこと、その後被曝者の健康に異常がみられなくても、毎年定期検診を受けることになっている。
「ドーズ・メータのみを信じていてはいけない」といった放射線医のオスター博士の言葉が、非常に印象的であった。
全予定を無事修了し、帰途の機上から見る北極圏は銀色に輝き、大自然の美の極地を見たようであった。
