
称賛やがて批判に
昨年は原子力発電所の故障が減り、稼働率が高まり、原油節約に大きく貢献し、原発の運営が軌道に乗ったかにみえた時、たまたま日本原子力発電会社の敦賀発電所が事故を起こし、またもや原発批判の声が高まっています。こんな時、原発反対派の学者や市民運動家が声高に批判するのに、電力会社やお役所の責任者は口をもぐもぐさせて弁解にまわるというのが決まりです。しかし原発の中で仕事をしている原子力技術者は原発についてどう考えているのか。第一線技術者の「声なき声」を聞いてみたいのです。
「私が米国アイオワ州立大学の原子力工学科を出て、ゼネラル・エレクトリック日本支社に入り、日本原電の東海二号、敦賀、東京電力の福島第一など沸騰水型原発のほとんどに関係してきました。当時技術者は最新鋭のアメリカ技術を導入するという自負に燃え、社会の原子力技術者をみる目は温かかったのです。マスコミもほとんどが原発称賛の記事でした。しかし世の中は変わりました。きびしく批判されるようになりました」
「日本の原子力技術者の水準は高いのです。そしてその大半は、原発はエネルギーとして重要であり、他の工学システムと比べて安全だと信じています。しかし自分の考えをなかなか外部に発言できず、歯がゆさを感じます。私は技術者といえども社会の中に入り、大衆の素朴な疑問にこたえる必要があると思っています」
「原発がなぜ人々に理解されにくいのか、いろいろ理由があります。日本は唯一の原爆被爆国で、核アレルギーが強いということもありますが、反原発運動が日本に限らず世界に広まったのは、あまりに巨大な最新技術への拒否反応だと思います。エンリコ・フェルミがアメリカで初めて“原子の火”をともして、まだ38年しかたっていないのに、急激に伸びた。日本の技術者はむずかしい専門用語をそのまま直訳し、一般の人たちに何のことかわからぬという違和感を植えつけました」
「技術者はもともと雑音の入らぬ研究室で静かに研究していたいのです。でも民主主義社会では、良い技術でも国民の支持がなければ利用できません。技術者が社会に入り、その信念を歯にきぬを着せずに主張する。そして大衆が、技術そのものはわからないが、それに取り組んでいる技術者が信用できそうだから原発を信用しよう、ということにならなくてはなりません」
「実は原子力工学それ自体、社会とのつながりが必要なのです。ここでは電気、機械、放射線医学、法律から社会心理学まで、浅く、幅広く知っていなければなりません。原子力技術者はプロジェクト・エンジニア(総合的技術者)なのです」
情報の混乱も一因
技術者が大衆に直接訴えたいといわれます。ということはこれまで大衆に原発情報を提供してきた新聞などマスコミに不信感をお持ちなのですか。
「既存のマスコミの人たちは事実だけでなく、感情も入っていると思われるような書き方をされる。原発の故障が芸能記者の芸能界のスキャンダルのように扱われます。敦賀原発の放射能もれにしても、あれだけのミスでも許容値を超えず、作業員や環境への悪影響は出なかった。つまり事故が発生しても、被害を最小限に抑えるシステムになっていると判断してくれないのです」
「海草汚染、平常値の10倍という見出しをつけ、それをトップに扱えば、一般大衆は『平常値』とは何か。その10倍とは具体的にどの程度かがわからず、いたずらに不安感だけがかきたてられ、あげくは魚の値段が下がるというバカバカしい結果になるのです」
「米国のスリーマイル島原発事件にしても、事故そのものではだれも死んだり、傷ついたりはしなかった。しかし情報の混乱で、あそこまでの大事件になったのです。事故調査後出された大統領特別調査委員会の報告(ケメニー報告)には、原発事故の際の情報源と記者活動への提言があります」
技術者は放射能の規制が実態をかけ離れてきびしすぎると思っており、それが敦賀の場合のように事故かくしにつながるのではありませんか。
「規制値が妥当かどうか、なかなか難しい問題です。しかし発電所側がそれを守ると約束した以上守る必要があります。事故の通報義務も守らなければなりません。約束を守らなければ、社会の原子力技術者に対する信頼感がなくなります。原子力技術者には大衆にキメ細かく、わかりやすく説明できる能力が求められるのです」
人材の確保が大切
敦賀原発事故の意味は原発批判の方向が、核廃棄物の処理に向いてきた現れでもあります。技術者は原子炉本体に熱中して、廃棄物処理技術をなおざりにしてきたのではありませんか。
「いや原子力工学は初めから廃棄物処理技術を重視してきたのですよ。どの家庭でも廃棄物が出ます。原発廃棄物も取り扱いをあやまらねば危険はないと思います。ただ最終的に処分する場所は発電所の外になり、住民と接触しなければなりません。ここでも技術者は大衆と話し合う必要がでてきます。」
技術者の指導で現場で働く労務者が問題になっています。各地の原発を転々とする「原発ジプシー」の内部告発の本も出ています。
「原発の自動化が進んではいますが、とくに年間3カ月にわたる定期検査には、たくさんの単純作業労務者が必要です。ただ3カ月の仕事だけなので通年雇用ができず、どうしても定期検査を追って各地の原発を転々とすることになってしまうのです。アメリカの場合、例えばゼネラル・エレクトリック社などは原子力空母や原潜で安全教育を受けた退役者をやとい、日ごろは電機工場で働かせておいて、いざという場合チームを組んで原発に送りこむ体制になっています。原子力のプロですから、こわがらずに作業します。日本は電力、電機、工事会社がそれぞれ人を集め、めいめい訓練して現地に送りこんでいる状態です」
「こういう人たちは3人に1人は原発に不安を持ちながら働いています。原発がこわいという情報が流れれば流れるほど労働力確保がむずかしくなります。原発建設に当たって、立地と並んで、これからは原発で働く人材の確保も大変になってきます。中学生ぐらいからエネルギー教育を行い、もっと人材のスソ野を広げる必要があります」
市民と対話の場を
技術者として一般国民に訴えるということですが、どうされるのですか。
「私たち原子力関係の技術者が4年前『行動するシンクタンク推進グループ』をつくり、産業界や原子力機関関係者に提言を行ってきました。その中で発電所の当直長の試験制度など取り上げられたのもあります」
「しかし一般大衆と対話できる場がないのが残念です。アメリカには反原発の市民運動とともに、親原発の市民運動もあるのです。それにならって、近く『エネルギーと暮らし・市民の会』という組織をつくるつもりです。そこでわれわれ技術者と一般大衆とがひざ突き合わせて、エネルギー生産、エネルギー節約、環境保全の三要素を調和したエネルギー戦略を大いに議論したいのです」