
最近の原子力論争はますます政治化し、いわゆるポリティサイゼイションの様相を呈している。科学技術の田地で萌芽した原子力が、政治の荒野に移植されようとしている。
将来のエネルギー戦略は、科学技術と政治・経済が有機的に機能し、その基盤の上で構築されるべきものである。単にイデオロギー的、政治哲学的に代替エネルギーを選択しようとするならば、人類発展の道を誤るおそれがある。科学技術の正確かつ冷静な現状分析が常に不可欠であることを、原子力工学者は主張していかなければならない。
「エネルギー戦略の中で原子力をどう位置づけていくべきか−−核エネルギー開発推進のための国際協力」を基調テーマにした原子力政策に関する国際会議が、昨秋ハワイで日、米、独の民間シンク・タンクによって開催された。会議の内容は、『原子力工業』の55年1月号に紹介したので、本稿では会議の報告書の中から重要なポイントを拾ってまとめてみる。
(1)原子力以外の代替エネルギーとその経済性およびそれがもたらすベネフィットの面で比較すれば、原子力の相対的優位性は明白である。しかしながら、原子力に対する評価の多くは、他のエネルギー源の開発に要するコストや時間といった視点で比較されたものではなく、狭い範囲の中で行われてきたきらいがある。その意味から原子力に対する再評価を公的な場で行う必要がある。
(2)輸入石油への依存度が異常なほど高いヨーロッパ諸国や日本ではエネルギー供給を安全保障の側面でとらえ、原子力開発の必要性を強く打ち出さざるを得ない。将来の石油供給に大きな制約となるかもしれないペルシャ湾岸地域で今日派生している政治的、経済的、戦略的な動向に視点を移すとき、このことはより真実性を増してくるであろう。原子力開発計画を立案する際や次の10年間の電力需要を予測する上において、産油国の政治動向を予測することが常に必要である。
(3)少なくとも日本および西ドイツでは、原子力による相対的に安価な電力の安定供給が、将来の経済の安定−特に国際貿易の競争において−非常に重要なカギとなることは明らかである。輸入石油の価格およびその確保の不確実性を考慮した場合、両国にとっては、原子力の開発を除いて、次の10年間に安価な電力の充分な供給はあり得ないかもしれない。発電原価からみて石炭火力発電の選択は、米国では可能であるかもしれないが、日本や西ドイツでは原子力に競合しえまい。
(4)原子力の技術面に関して最も緊急を用する課題は、現在の軽水炉の安全性と信頼性を高めることである。TMI事故の後、種々の検討が行われ、改良すべき点は具体的に指摘されている。また、米国と西側先進工業国の間では、緊密な協力と情報の交換を軸に、改良型軽水炉設計の標準化が進められている。同時に高速増殖炉の開発においても、このような国際協力が進められるべきである。増殖炉は、燃料の経済性と長期安定碓保の点からみて、将来ますますその重要性が認識されるであろう。
(5)非電力部門への原子力の適用は、高温ガス冷却炉(HTGCR)の開発と合わせて重要視されるべきである。HTGCRでは、その熱を石炭転換、製鉄、水素ガス生成、あるいはエネルギー多消費産業などのプロセスヒートとして利用することができる。そのうえ、HTGCRはトリウム・サイクルを採用しようとしており、U−Puサイクルに替わり得る燃料サイクルとして、多くの利点を有している。
(6)放射性廃棄物のガラス固化と地下処理に関する最近の研究によれば、廃棄物処理管理システムの開発は、もはや実証段階で進めるべき時期に来ている。この分野の研究開発は、多国間協力で有機的に進められるべきものである。
(7)政治的反原子力運動に対して、西側先進工業国の原子力推進側は、人々に受け入れられ、なおかつ行政府の支持を得ることができる戦略を立てる必要がある。この方向に進む基本的なステップとして、原子力推進派と称する科学技術分野の従事者は、専門家ではない一般の人々に、原子力の論点が理解されるよう工夫しなければならない。
(8)INFCEの成果を踏まえて、原子力産業界は、エネルギーの安定供給と核不拡散政策とが競合し得るなんらかの方策を見つけることができる。原子力技術の移転や核燃料の供給保障の分野で、米国の産業界の国際的な活動を阻害している核不拡散法の条項を改訂する方向で、米国議会はこの問題を再度審議すべきである。
(9)予測される世界情勢がどうあろうとも、原子力政策を進める上で同盟国間の協力関係を高めることは今後いっそう必要になろう。1980年代および90年代におけるエネルギーの安定供給は、米国、西側ヨーロッパ諸国および日本が今日抱える最も基本的な安全保障上の課題である。数多く出されている代替エネルギーの見通しによっても明白なように、原子力の拡大利用なくして将来のエネルギー需要を満たすに充分な供給は保障することができない。しかし、今日直面している原子力発電所の建設計画の遅れを取り戻すことは容易ではない。少なくとも、米国、日本、西側ヨーロッパ諸国は、それぞれのPuリサイクル、FBRの開発、代替核燃料サイクルに関する計画の相違点を調整するための努力を払わなければならない。
会議の出席者には、政治家あり、経済学者あり、もちろん科学者ありで、まさしくインターディシプリナリーな原子力論議が行われた。
(1980年1月30日記)