スリーマイル・アイランド原子力発電所2号機の事故は、事故そのもののスケールの大きさの何倍もの影響を世界に与えてしまった。事故時における情報伝達が混乱したことがその一因として挙げられているが、アメリカにおける明確なエネルギー政策の欠如、それに関連した原子力産業の不振、といった不安定な情勢と、事故発生の12日前に封切られた映画「チャイナ・シンドローム」が、今回の事故の状況と類似していたことなどが社会に多大の不安感を煽ったことも一因であろう。
事故そのものの原因はもとより、何故あのように大きく社会的な影響を及ぼすにいたったのか、といった間接的な事象の原因までを合わせて、詳細に究明されなければならないであろう。そうすることが、あの忌わしい事故を、今後の原子力開発における貴重な教訓とすることができるからである。
事実、当事国のアメリカにおいては現在、議会の各種委員会、原子力規制委員会(NRC)をはじめとする関係行政府、産業界、学術研究グループ、原子力反対・賛成の両者に分かれた市民グループ、報道関係者・・・といった諸機関およびグループが、あらゆる角度から事故の原因究明に努力している。今までに発表された原因は、憶測による部分が多く、その信頼性には一抹の不安がある。そのために、とくに信頼のおける事故調査グループによる詳細な調査結果の発表をまった上で、この事故を考えてみることが必要である。
しかし、ここで指摘しなければならないことは、事故発生後の3カ月間の動向を追跡する限り、関係者間での責任の擦り合いの様相を社会に与えている点である。規制側(原子力規制委員会、NRC)は電力側(メトロポリタン・エジソン社)の規定違反を主張し、メーカー側(バブコック&ウィルコック社)はオペレーターの単純ミスを主張する、といった風潮である。TMI原子力発電所の所有者、メトロポリタン・エジソン社は、議会での証言以外、今のところ公式見解的なものを発表してはいないが、おそらく自己の責任範囲を軽減するための主張をすると思われる。
原発事故に限らず、他のあらゆる事故が起こった後にはそれを作ったメーカー、ユーザー、それに安全性を認めた行政府の間で、責任の擦り合いがエスカレートするのが常である。当事者にとっては、後刻での賠償金の支払いにも配慮して、誰が、どの程度の責任を負うのか、という責任の所在は非常に重要となるからである。民間企業なら、その支払い賠償額によっては経営の屋台骨を揺るがされかねないし、行政府であれば国民の信頼を裏切ることになるからである。
当事者にとって背に腹は代えられないほどの重要な抗争であっても、第三者の国民の眼には、実に醜く映ることが多い。とくに、その抗争の対象が原子力発電所の場合、今回のような事故が起きる前から、国民の間でその建設に賛否両論があったために、それはなおさらである。原子力発電所そのもののイメージアップもさることながら、その開発を推進する上で重大な責任を負ったメーカー、電力業界、行政府は、国民の信頼を得ることが重要であり、その姿勢こそ誰もが必要と認める「原子力に対する国民の合意」を得るための基本である。にもかかわらず、これら三者が、醜い抗争を国民の前にさらけ出すことは、安価で安定したエネルギー源を開発するという大局的な原子力開発の目的にとって、大きなマイナスであることは明白である。
訪米中に関係者から聞いた話や入手した資料を総合的に紐解いてみると、今回の事故の責任は三者三様にあるように思われる。原子力規制委員会(NRC)から最終的な結論が出ていない時点で、私的見解を述べることは軽薄とみられるかもしれない。しかし、事故発生後2カ月そこそこで、早々と自己防衛の見解を発表しているアメリカの関係者の方が、より軽薄であり、またそういった発表に目くじらを立て、いまだ多くの憶測が入り交じった論評を揚しているわが国の原子力関係者や報道関係者もまた、軽薄である。
今までに発表されている事故に対する論評の大部分は、今回の事故が、TMI原発の運転操作員の単純なミスによる人為的な原因によるとなっているが、事故の原因の大半を、立場が最も弱い運転操作員に短絡的に結びつけることができない事実を、最近入手した資料で知ることができた。
以下にその資料の一端を紹介するが、ここで筆者が訴えたいことは、事故に対する責任の方向を、現在までの論評に逆らって他に転じようとするものではない。それぞれの立場にいる関係者が今回の事故の教訓を将来の礎とするために紹介するものである。このある意味でセンシティブなペーパーを書くにあたり、その結論をプロローグに長々と持ってきたのは、筆者の真意を正しく読者諸兄に伝える自信がなかったからである。
TMI事故は、原子炉の平常運転時以上の線量の放射能を、大気中に放出したことは事実である。その原因は6つに絞ることができる。各々については政治的判断や感情的な私情も入る余地がなく、事実に基づいた科学技術的な検討が十分になされうるものであるから、原子力規制委員会の見解も、バブコック&ウィルコックス社の見解も一致するところである。
この6つのキーポイントについては、わが国でも事故調査報告などを通じて紹介されているから詳細な説明は省略する。
(1)二次系の補助給水システムの作動が遅れたこと
TMI事故のそもそもの発端は、二次冷却水のポンプが故障したとき、補助給水系のポンプが設計通り自動的に作動したにもかかわらず、その下流のバルブが閉じたままであり、それに運転操作員が気づくのに時間(約8分)がかかったことにある。
ここでの問題は、
(イ)2基ある二次系ポンプが何故同時に故障したのか、場合によってはポンプ製造者の品質管理上、プラント設計上のミスが考えられる。
(ロ)補修後の点検要領は完全なものであったか、完全でなければ、その要領を準備し、オーソライズした担当者に責任がありうる。
(ハ)中央制御室バルブ開閉表示は十分に見易いものであったのか、制御パネルの設計者にも責任はありうる。
(2)自動的に作動する加圧器逃し弁が閉じなかったこと
設計通りに自動的に開いた加圧器逃し弁が、設計通り自動的には閉じなかった。またそれに運転操作員が気づき、バルブを手動で閉じるまでに時間(2時間以上)がかかった。
ここでの問題は、
(イ)逃し弁の信頼度は十分に高かったのか、逃し弁を含めた加圧器の設計・製造業者、それを認可し、受け入れたNRC、または電力業界にも責任がありうる。
(ロ)逃し弁を含めた加圧器の点検は十分なされていたか、点検ガイドを作った担当者にも責任はありうる。
(3)高圧炉心注入系(HPCI)を早く切りすぎたこと
設計通り自動的に作動した高圧炉心注入システムを、加圧器の水位が上昇したために炉内水位も十分上昇したと判断して切ってしまった。この状況下でマノメーターとしての加圧器水位の信頼性は低かった。
問題は、
(イ)HPCIの切断手順がオペレーション・ガイドに明記されているにもかかわらず、運転操作員が判断を誤るおそれはなかったのか、オペレーション・ガイド作成者にも責任はありうる。
(ロ)冷却材喪失事故時の対応手順について運転操作員の訓練は十分であったのか、訓練指導者にも責任はありうる。
(4)格納容器の隔離が早期に行なわれなかったこと
格納容器から出ているすべての配管は、格納容器の内圧が4psiに上がったとき、自動的に閉じる。これで格納容器の隔離が完了したといわれているが、TMIの場合、約4時間後までこの隔離がなされなかった。
ここでの問題は、
(イ)加圧器の逃し弁が開放のままで、一次冷却水がドレイン・タンクに次々に溜まり、ついにその安全膜が破れて格納容器の床が汚染された一次冷却水でぬれ始めたときには、その床下に位置するサンプから補助建屋へくみ出すポンプがすでに自動的に作動しており、格納容器の隔離はなされていない。一連の自動装置が設計通りに作動したのなら、その設計者の責任であり、またそれを認可した規制当局の責任でもある。
(5)一次冷却水のポンプを停止させたこと
タービントリップ後、1時間から2時間の間で、4台ある一次系ポンプがすべてキャビテーションをおこしだし、運転操作員の判断で4台のすべてを次々に停止させてしまった。「冷却水の確保」という軽水炉の安全運転の基本に反したとして、この運転操作員のミスが指摘されているが、はたしてそれだけであろうか。
(イ)このポンプは例外かもしれないが、一般にポンプがキャビテーションをおこせば、停止させるのが常識ではないか。その常識に反する運転手法が要求されるなら、そのことを運転操作に明確な方法で注意するはずであるが、それがなされていたか。
(ロ)この種のポンプを、冷却水の二相流が混入する可能性のある場所に使用することは適切であるのか。
(6)加圧器の水位を重点において運転がなされたこと
加圧器は炉内圧力を一定に保つ役割のほかに、その水位で炉内の冷却状態を判断する。平常運転時の一次冷却水は液相のみであるから、マノメーターは十分に信頼できる。しかし、今回の事故のように、炉圧が下がりボイドが混入した場合、加圧器の水位はマノメーターとしてまったく信用できない。水位のみを中心にした判断で運転をしつづけた運転操作員のミスとしてクローズアップされているが、はたして運転員の誤操作のみでかたづけられるのだろうか。
(イ)最も必要になるトランジェントの際に役立たない加圧器の水位を中心とした運転方法を訓練したのか、指導員にも責任がありうる。
(ロ)このマノメータのほかに、圧力計による炉内冷却状態を判断する方法もあるが、この方法は加圧器の水位による方法にくらべて、扱い易さの上でどうだったのか。
バージニア州のリンチバーグで、6月5日、バブコック&ウィルコックス社は、今回のTMI事故に対する公式見解を発表している。すべてのスピーチの原稿を入手したのみで、どのような雰囲気の中でこれが行なわれたのかはわからないが、そのプログラムは以下のようである。
INTRODUCTORY REMARKS(原稿6頁)
By Gerge G. Zipf, J. Ray Mcdermott社の副会長で、B&W社の社長 注)
AFTER THREE-MILE ISLAND(原稿3頁)
By L. M. Favret, B&W社の発電部門担当副社長
TMI-2: A BABCOCK & WILCOX PERSPECTIVE(原稿12頁+図5枚)
By John H. MacMillan, B&W社の原子力発電部門担当副社長
CLOSING REMARKS(原稿3頁)
By George G. Zipf
注)B&W社は、今年の1月、石油関係のエンジニアリング会社として知られるJ.Ray McDermott社に身売りし、その子会社となっている。そのとき、B&W社の本部をオハイオ州のバーバートンからバージニア州のリンチバーグへ移転した。
B&W社の見解の中から、事故の6つのキーポイントに対する事項のみを拾い上げてみると、その要旨は第1表のようになる。
今回のTMIのような事故が起こりうることを誰も予測しなかったのであろうか。原発反対者が指摘する警告のような漠然としたものや、映画「チャイナ・シンドローム」のようなSFまがいのものではなく、確実なデータに基づく科学的な解析による予測である。
実はあった、TMIの事故が起きる1年前1978年1月、B&W社のPWRを審査していたNRCの担当官から、「極小破断のようなLOCAに対して設計上に問題がある」とするペーパーが上司に提出されていたのである。その上司はただちにその要旨を書いた手紙をReactor Safety Boardのメンバーに送っている。その後、連絡を受けた工事認可申請者のTVA(テネシー・バレー電力公社)は、それを検討した結果、NRCスタッフの指摘に同意する点が多いとして、B&W社に詳細な再検討を依頼している。約8カ月間かかって解析した結果、B&W社もその指摘の一部を認める回答をTVAに送っている。その後、再度TVAはB&W社に手紙を送り、B&W社の先の回答に関して質問している。こういったやりとりが今回の事故の直前まで続いており、その結論が出ていないことが判明した。
この事故については、アメリカ議会の委員会においても、関係者に証拠資料の提出を求め、検討がはじまろうとしている。筆者が入手した資料のほかにも、これに関するドキュメントが存在するかもしれないが、とりあえず入手したペーパーを以下に挙列する。
1978年1月 ”Preliminary Copy for Review and Comment”として36頁のペーパーを C. Michelson名で出している(本文31頁+表・図5頁)。
1978年1月10日 NRCのReactor Systems Branchのチーフ、Thomas M. NovakからRSBメンバーへのメモランダム。NovakはMichelsonの直属の上司と思われる。サブジェクトは”loop Seals in Pressurizer Surge Line”(本文1頁と図面1枚)
1978年4月27日 TVAのNuclear Engineering Brunchチーフ、D.R.PattersonからB&W社のJames McFarlandへの質問状。サブジェクトは、”ECCS-Small Break LOCA Analysis”(本文3頁、レター番号 MEB 780427-133)。
1979年1月23日 B&W社のSenior Project Manager、James McFarland(ただし、サインはAssociate Project ManagerのRobert E.Lightle)から上記のPattersonへの回答書(手紙文1頁、レター番号、D-3132、添付の回答書2頁)。
1979年2月8日 上記TVAのPattersonから、B&W社のMcFarlandへの再度質問状(本文2頁、レター番号、MEB 790213-116)。
Michelsonのペーパーから、その要旨に筆者の若干の解説をつけ加えると次のようになる。
冷却材喪失事故(LOCA)の解析で仮定される最大事故は、最大口径管の両端破断で、炉内冷却材が急激に喪失するケースである。しかし、この場合でも「緊急炉心冷却装置(ECCS)が十分に速く作動し、十分な量のメイクアップ冷却材が炉内に注入され、炉内の崩壊熱が除去されて原子炉の安全性は堅持される」というのがECCSを使った、原子炉の安全性評価の基本である。
大口径破断事故の場合、冷却材喪失速度は速く、ECCSは相当短時間で作業することが要求される。しかし、一度ECCSが作動すると、メイクアップ流量に注意を払う必要はない、なぜならば、崩壊熱を除去した冷却水が、その破断口から十分な流量でもって流出するからである。
しかし、破断口径が0.05ft2以下といった極小の場合(加圧器の圧力逃がし弁が開き放しの場合も含まれる)、冷却材喪失速度は遅く、ECCS作動時間にも余裕がある。その反面、破断口が小さいため、崩壊熱除去は破断口からの冷却水の流出量では十分でなく、自然環境による崩壊熱除去が必要になり、メイクアップ流量のコントロールが重要になる。
この極小口径破断で重要視せねばならないメイクアップ流量の緻密なコントロールと、自然循環流の確保の必要性という面を考えると、B&Wの一部のPWRに次のような不安な点がある、とNRCスタッフは指摘している。
(1)ホットレグ配管は高く立ち上がり、逆U字形の配管部を通って蒸気発生器(SG)の頂部に結合されている。したがって、その配管を通る一次冷却材は、逆U字形部で沸騰し、管内で圧力が一番低く、ここに蒸気がトラップされ、自然循環が妨げられることがありうる。
(2)加圧器頂部の破断事故(圧力逃し弁の再閉不可など)の場合、加圧器内から蒸気相が急速に失われることにより液相水位が上昇する。一方、炉内の圧力は低下し、炉心はプール沸騰を始める。このような状況下では加圧器の水位は安定するが、炉心は露出する可能性が予想される。したがって、炉心の冷却状態を見る上で、マノメーター効果を応用していた加圧器の水位はもはや信頼性のあるものではない。
Michelsonペーパーのケースと、今回のTMI事故のケースに類似点が非常に多いことに驚かされる。たとえば、(a)両者の対象がB&W社のPWRであり、サイズもほとんど同じであること、(b)加圧器の逃し弁の故障によるLOCAであること、(c)加圧器の水位を重視した運転で失敗していること、(d)一次系ポンプがキャビテーションを起こすほど、一次系冷却水の自然循環は困難であったこと、等々である。
第1図で、TMI2号プラントの各コンポーネントの相対的位置を見るとき、加圧容器の出口から逆U字形配管の14.3mもの高さを、自然循環のみの力ではたして登ることができるのか。「極小破断による過渡現象が緩やかであるため、自然循環の阻止は起こらないであろう」、とするTMI事故発生の2カ月前に出したB&W社の回答はどうであったのだろうか。
第2図に示したTMI事故時の加圧器水位および一次冷却材圧力の変化を見るとき、Michelsonペーパーが1年前に出されているのであるから、関連する発電所のオペレーターに、加圧器の水位のみで炉内圧力を判断してはならない、といった注意がなされなかったのであろうか。

このように、1978年1月、NRCのスタッフが出した指摘を、何らかの形でとりあげ、オペレーターも含めた関係者に伝えていれば、1年後の事故は起こらなかったであろうと思われる。その両者の関連性を第3図に示してみる。

法的規制、企業間の契約および運転員の雇用条件などに照し合わせた事故の賠償責任の判決は別として、真実と信頼を追求する使命を背負った科学技術の領域で論じるならば、今回のTMI事故に対して、メーカー側、規制側、電力側に属する技術者の三者はその責任を三様に感じなければならない。
また、今回の事故に直接関係する技術者のみならず、われわれ原子力に携わる技術者はすべて、真摯な態度で今回の事故を受けとめ、安全な明日のエネルギー源確保に邁進しなければならない。信頼される技術者になることこそ、原子力のPRに多額の投資をかけるよりも何倍もの効果があり、これこそ原子力に対する国民の合意を得るための手段であると考える。
1979年9月 原子力工業
