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「電気新聞」(2002年10月30日)

[ウェーブ=時評]

          楽しい話もあるじゃない

                       上坂 冬子(作家、評論家)
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<その2>

 もう一つ。JCOの事故をきっかけとして誕生した、ひたちなか市の原
子力緊急時支援・研修センターに行ってきた。出かける前に私は多少の疑
いも抱いていたのである。つまり、あれからまだ3年しかたっていないの
に、いわゆるお役所仕事でこんなに早くこの種の施設が完成するだろうか
と不安だった。だが行ってみて驚いた。               
 いつだったか敦賀市で大々的に行われた防災訓練も私は見ているが、何
となく練習ムードのたどたどしさを感じさせたあの訓練のエッセンスを見
事に取り入れて、事故状況の把握と進展予測、放射線影響の評価、医療活
動、救助と社会秩序の維持などに分類しながらコンピューターを駆使して
スピーディーな支援対策が講じられていたのである。事故発生後に避難場
所に出向いて住民の体表面汚染をチェックする測定車や、おなじく放射線
物質を体内に取り込んだかもしれぬ人に対して全身放射能測定装置を積ん
だ車なども待機していた。国内外をゆるがせたJCOの事故から、わずか
2年半でこれほどの施設がオープンしたということに私は驚いた。その気
になれば日本もやるじゃないか、というのがいつわらざる感想である。騷
ぎまくって謝りまくれば事故が未然に防げるというわけでもあるまい。少
し楽しい話や頼もしい話を拾い集めて披露してはどうか。       
 茨城県はひたちなか市に完成した「原子力緊急時支援・研修センター」を高く評価して下さっている。また、そこて行われた原子力発電所関連の事故に対する大がかりな防災訓練の模様を見学されていたく感激されてもいる。

 「国内外をゆるがせたJCOの事故から、わずか2年半でこれほどの施設がオープンしたということに私は驚いた」とおっしゃっている。そして、また、「その気になれば日本もやるじゃないか」とまで誉めて下さっている。

 しかし、われわれ原子力技術者たちは、何ら嬉しくないのである。「原子力緊急時支援・研修センター」も大がかりな防災訓練もまったく無用の長物と考えているからだ。

 原子力の安全技術は、他のどんな技術と比較しても劣ることはない。現に未熟な作業員がマニュアル違反をして引き起こしたJCOの臨界事故にしても、死傷したのは自分たちだけでくい止められたではないか。また、東京電力の問題にしても、規制を大きく逸脱しても、反対派が主張しているような原子炉の暴走事故はおろか、運転に如何なる支障も出なかったではないか。

 原子力の安全技術は、核分裂暴走から放射線の人体への影響まで、知りつくした上での設計であり、運転管理のシステムなのだ。

 問題は、この極上の安全技術を一般国民が理解するところまで未だいっていないところにある。いや、国民の隅々まで理解してもらうには、科学教育の普及から始めなければならないから、100年を費やしても不可能だろう。

 理解してもらえなくても、われわれ原子力関係者が、人間として信頼に値する集団と認めてもらうことだ、と信じている。

 我々が信頼されるまで、いくら立派な「原子力緊急時支援・研修センター」の類の施設を造っても、ほとんど効果などないだろうと思っている。地元住民の方々の気休めにもなっていないのではないだろうか。

 電力会社の原子力技術者達は、如何に誠実に運転管理を行っているか、巷に出てご説明申し上げること。原子炉メーカーの技術者達もまた、巷に出て、如何に安全設計と建設に努力してきたか、ご説明申し上げること。そして、規制当局の技術者・検査官達も、安全規制を常に見直して検査テクニックの研鑽に日夜努力を積み重ねているか、巷に出て申し上げねばならない。

 こういった専門的なことを一方的に説明する前に、「自分は人間として信頼に値するか」を自問自答しつつ説明責任を遂行せねばならないだろう。

 今日、日本の原子力界が直面している問題の本質は、説明責任を放棄して、そういう分野は著名人に依頼してきたところにある。

 例えば、上坂先生は、話もうまい、文章もお上手、そして国民の中に多くのファンもいらっしゃるだろう。しかし、上坂先生に原子力の安全性を説明してもらっても、原子力界に対する国民の信頼には、決してつながらないのだ。

 原子力関係者はすべて説明責任を負っている。全員が大聴衆を前にして演説できるようにならなければならないと言っているわけではない。家族、友人、知人から、自分は原子力のどんな仕事をしているのか、といったところから説明していけばいいと思っている。

 失った信頼を取り戻すには長い年月を要するだろう。しかし、特効薬はない。「急がば回れ」というではないか。

            「G研」代表