電力自由化の議論が昨年11月、経済産業省の電気事業分科会で再開さ れた。2000年3月に一部の大口顧客に対する小売り自由化が実施され、 その際に3年後の見直しが決められていたためだ。 中国をはじめとするアジア諸国の成長によって、製造業の競争力強化は 時間との戦いになっている。産業再生のために、ユーザーの利益を第一に 据えた検討を進め、できるだけ早く完全自由化に踏み切るべきだ。 ここでは、発電と送電を分離し卸売りの取引所(プール)をつくること を完全自由化と呼ぶ。自由化には「安定供給が果たされなくなる」との懸 念が示されるが、そうだろうか。本稿ではこの見解に対していくつかの角 度から反論する。 とくに、電力分野の自由化は規制撤廃ではなく規制の転換を意味するこ と、新規参入者との競争もさることながら電力会社間の競争が重要である ことの二点を指摘したい。 電力のように巨大設備やネットワークを必要とする事業は政府が介入し なければ独占状態に至る(地域独占)。そこで、独占を認めるかわりに、 政府が料金を規制してきた。しかしガスなどを使用する小規模で高効率の 発電技術が発達し、発電分野では地域独占を認める必要がなくなった。 地域独占を認める根拠が崩れれば、料金を規制する必要もなくなる。市 場での価格形成に移行するのは当然の方向であり、今後はこの条件下で安 定供給の枠組みをつくることになる。 しかし、送電については今後も独占が残る。送電網を新規参入者が別途 建設するのは困難で、非効率でもあるからだ。「系統運用」とよばれる電 力ネットワークのシステム管理も市場に委ねるわけにはいかない。電力は、 ネットワーク上で需給を常に厳密に一致させなければ、停電が発生してし まうからだ。 需要にあわせて出力を調整する「同時同量」とよばれる運用が必要にな る。こうした系統連用は、ネットワーク全体を対象に実施することが最も 効率的であり、その意味で独占性が今後とも残る分野である。 このように完全自由化後も、送電・系統運用においては強い規制が必要 だ。この点が、自由化を考える上でのもっとも重要なポイントである。発 電における地域独占が認められなくなり、かつ送電における独占が残る以 上、両者の機能を分離し、後者を独立に管理することが必要になる。 現在は区分経理をして託送料金を計算し送電部門の独立を確保する仕組 みになっているが、透明性も独立性も十分とはいえず、新規参入者の不満 が強い。原則的には電力会社に会社分割を命ずることが必要だ。 しかし、それが困難で、送電施設を電力会社所有のままにするならば、 運営を独立の機関に委ねるべきである。すなわち、送電線管理と系統運用 のために独立の機関を設置し、ネットワーク参加者が等しく利用できるよ うにすべきだ。 |
「電力事業を完全自由化すれば、競争の原理から料金が下がる」という神話は、経済の基盤産業には通じないだろう。ましてや、中国など台頭著しいアジア諸国と日本とを比較すると、未だ少ない需要に見合って資源が豊富にあるため、自前のエネルギー源を使っての供給体制では価格の安い電力なども供給できるだろう。それだけではなく、人件費が格段に安いことが、日本の企業などの工場移転の理由である。
よって、電力事業の自由化は、決して軽々に急いではならない。
「自由化には<安定供給が果たされなくなる>との懸念が示されるが、そうだろうか。本稿ではこの見解に対していくつかの角度から反論する」
この見解に対する反論は、「本稿」では結局なかったようだ。まあ、反論のしようがないだろう。
「新規参入者との競争もさることながら電力会社間の競争が重要であることの二点を指摘したい」
なぜ、既存の電力会社間の競争が重要なのか、理由が明確にされていない。
「電力のように巨大設備やネットワークを必要とする事業は政府が介入しなければ独占状態に至る(地域独占)」
むしろこの逆だ。現在の9電力体制は、政府の介入と闘って、民間分割を、当時の松永安左エ門をリーダーとする民間の経営陣が勝ち取ったのであることをご存じないのであろうか。地域独占にしたのは、無駄な競争を避け、経営立て直しに邁進させるためだったのだ。
「市場での価格形成に移行するのは当然の方向であり、今後はこの条件下で安定供給の枠組みをつくることになる」
料金が多少高くても、停電するよりはまだ我慢できよう。よって、「安定供給の枠組み」つくりのほうが何よりも先行させなければならない。カリフォルニアの轍は踏むわけにはいかない。
発電部門と送電部門を分離し、発電部門は既存も新規参入者も大いに競争して価格は下げよ、という主張だが、送電部門は切り離して一括管理せよ、という主張のようだ。そして、
「すなわち、送電線管理と系統運用のために独立の機関を設置し、ネットワーク参加者が等しく利用できるようにすべきだ」
新規参入者の送電線までつくらせるのは、忍びないから、すでに持っている既存の電力会社から取り上げるか、所有権はそのままにしても、送電管理と系統運用管理を独立の機関を設置してやれ、ということのようだが、これこそ電力事業の自由化論に矛盾する。
電力事業には、発電だけではなく、送電も重要なファクターだ。送電ネットワークも今のままで良いはずはない。今後もその設備の充実は不可欠だ。ということは、送電部門にも、新しい送電技術を開発して、新規に参入したい事業者も出てくるだろう。電力の完全自由化を望むなら、送電分野だけに自由化を閉ざすわけには行かないだろう。