「日本経済新聞」2002年2月20日


<経済教室>    

発・送電分離し完全自由化

                        政策研究大学院大学
                           教授 太田 弘子

       市場で価格を決定

                送電網と系統運用は規制

<その1>

 <前 文>

(1)産業再生のために電力の完全自由化に踏み切るべきだ。完全自由化
は発電と送電を分離し、卸売りの取引所をつくることである。そこに至る
ステップを明確に提示しなければならない。             
(2)発電の地域独占が崩れても送電には独占が残る。送電網の管理とネ
ットワークの運用(系統運用)は独立の機関を設立して実施すべきだ。 
(3)新規参入者との競争もさることながら、電力会社間の競争を促すこ
とがきわめて重要である。                     
 日本の農業をダメにしたのは、戦後の農地改革だと信じて疑わない。企業体で言えば、戦前の農業において、地主は経営者であり、小作人は労働者であった。その労使関係の構造を戦後の農業経営に移行させていれば、農業の会社組織が日本全国で誕生し、今のような「三チャン農家」のような零細農業に止まってはいなかったはずである。

 電力の自由化は、この失敗した「農地改革」のように思えてならない。大企業に成長した既存の電力会社を、できれば細分化し、小さな電力会社が無数にできることを、「自由化論者」は望んでいるようである。あたかも地主からほとんど無償で田畑を取り上げ、小作人に分け与えたように、さしあたっては送電網を取り上げ、新規参入の電力事業者にほとんど無償でその便益を与えよと主張している。

 電力事業は、最近流行のベンチャー企業の類では決して成功しないことが、あの一時隆盛を見せたエンロンがもろくも破たんしたことで証明されたではないか。エンロンの破たんの最大の原因は、経営者の無責任さと儲け主義にあるとされている。

 民間企業であるから適正な利潤追求も重要だが、電力事業のような国民の経済活動を支える基幹産業では、まず安定経営に基づく製品の安定供給が要求され、それに企業は応えねばならないのである。

 「自由」「自由化」・・・なんとも心地よい響きを持った言葉ではないか。統制経済や計画経済を頑強に否定してきた。そして、自由経済を標榜し、死守してきた者にとって、地域独占など許されるものではない。よって、電力事業へ新規に参入したい企業家は大いに歓迎されよう。独占してきた地域のバリヤーも撤廃して、既存の電力会社にも相互に切磋琢磨して大いに競争してもらおうではないか。

 それには条件がある。電力の安定供給、環境への最大の配慮、そして発電所など施設の安全確保の3つが守られることが保障されなければならない。参加したい企業家なら誰でも参加できる、すなわち門戸を大きく開くことは、規制撤廃にもつながるが、リスクを抱えることにもなる。よって上記の条件が満たされているか、厳しくチェックしなければならない。

              (次につづく)