■このG情報に異議あり■


日本経済新聞(2011年12月7日)


<社 説>


      東電は原因究明から逃げるな


(その3)G研のコメント


 「放射性物質が大量に漏れる重大事故への備えでも、『国と一体となって整 備した安全対策を含め、ほぼすべての機能を失った』と総括した。国の安全 基準の不備が原因と言わんばかりで、電力会社の責任に踏み込みが足りない」

 日本社会では平身低頭して先ず謝罪しておけば、少しは許されるだろう、法的 な責任は後で訂正すればよいといった暗黙に了解することがある。しかし、アメ リカ社会などでは、例えば交通事故に遭遇していくら自分に落ち度があると思っ ても、その場では絶対に「アイムソーリー」といってはいけない。後々の法廷闘 争などに発展した時、不利になる、と保険会社などからアドバイスを受けること がある。

 東電社内の調査報告で、事故責任に踏み込むなどとは愚かなことである。ここ は自分の立場を守り、「国の安全基準の不備が原因」などは明確に主張しておく べきである。それを日経は逆の方向で指摘しているが、これぞまさしく「笑止千 万」といえよう。

 「東電の幹部や技術陣が事故の危険性をどう認識し、拡大を防ぐためどう行 動したのか。その記録や証言が明らかになっていないことが、疑問が解けな い根底にある」

 こういうことこそ、政府や国会の調査報告で記述されるのではないか。そうい った調査委員会に「東電の幹部や技術陣」が呼ばれ、厳しく追及されるものと想 像されるが、社内の報告書に自らが不利になるような記述まで必要とは思わない。

 東電社内の調査報告は、事故時や事故後の政府の対応やマスコミの報道が事故 収束作業にどのように影響したか、といったところにも踏み込んでもらいたいと ころだ。

 「東電の幹部や技術陣が事故の危険性をどう認識」したかなどは、本人達でな い我々でも容易に想像できるところだ。彼らに代わって想像で証言してみると、 次のようになる。

 想定を越えた巨大な津波が押し寄せてきた時、緊急時用のジーゼル発電機は水 に浸かって運転不能になり、また外部電源も大震災で停電が続いており、発電所 内の電気はすべてアウトになった。そのことが確認された段階で、炉心内の燃料 の冷却をどうするか、温度が上昇すると水素の発生も盛んになるだろう。こうな ると、現場の技術者達は自分たちの身の危険より、原子炉の方がより心配になる ものだ。電気を使わないで炉心を冷却する方法に文殊の知恵を結集すれど、パニ ック状態ではなかなか良い考えは浮かばない。

 地震直後から津波の襲来にかけては、外部との通信もままならなかったが、そ れだけは間なしに通じるようになった。しかし、本店、総理官邸、地元自治体な どからの問い合わせが殺到して、発電所の現場からの応援要請など出せる状況で はなくなっていた。ようやく移動発電装置を回すよう要請できたが、道路にがれ きなどが散乱して移動発電機の到着は大幅に遅れてしまい、いよいよ原子炉の内 部も危険な状態になっていることに思いをはせるのみになる。

 電源がないと、原子炉の冷却はおろか、すべての計器類も作動不能になってい るから、あらゆる状況について想像をたくましくする以外に状況把握の方法は皆 無になる。それでも現場の技術者達は徹夜で発電所内を走り回り、震災後の状況 把握に超多忙を極める。

 震災の翌未明、総理官邸から電話が入り、総理が原子力安全委員長を従えてヘ リで間なしに到着すると連絡が入る。それも防護服など着ず、無防備でやってく るというから、早朝から予定していたベントの準備作業を午後にずらすことにす る。ベントは原子炉建て屋内の気圧を下げるのが目的だが、同時に放射性物質が 大気中に飛散する恐れもあるから、慎重にしなければならない。

 といった状況が3月11日午後から12日午前にかけて福島第一発電所内の状 況を勝手に想像だけで描いてみたストーリーである。ただ、このように現場で働 いていた人たちの証言がなくても、我々原子力屋は容易に想像できるのである。

 このような現場のストーリーがどれほどの意味を持つのか、我々は疑問だが、 マスコミなどは「記録や証言が明らかになっていないことが、疑問が解けない根 底にある」などと大袈裟に要求している。現場の技術者の心情や行動などは、そ の場にいなかった我々でもそれらは手にとるように分かるのである。

 とかくマスコミは、ハインリッヒの法則を持ち出し、原発で起こった色々な事 象を針小棒大に報道することの正当性を主張しがちだが、こういった安易な報道 が悪循環の引き金にもなり得るということも配慮すべきだろう。

 「政府や国会の調査委が来年夏までにまとめる報告は、首相官邸の初動や東 電との意思疎通、情報開示が適切だったかを含め、事故の全体像を解き明か す責務がある。東電に強く働きかけ、証言などの事実を明らかにさせるべき だ」

 東電だけに「強く働きかけ」るのではなく、首相、官房長官、原子力安全委員、 地震学者から、取材に当たった記者達にも「強く働きかけ」て、多方面からの証 言をできるだけ多く集め、事実を明らかにさせるべきだろう。

 最後に一つ、電力サイドの反省材料として申し上げておきたいことがある。

 より高度な安全性を確保するためには、とくに、@常識的でない考え、A異な る視点、B経営などは意識しない考えなど、平時、通常時には排除されがちな発 想ができる人材をきちんと育てておくことが重要だろう。常識的な考えの持ち主 では、大事故を未然に防ぐためのアイディアなどは浮かんでこないものであるこ とを強く認識すべきだろう。

 今ひとつ、外部の地震防災の専門家と称する人たちの警告にあまり真剣に耳を 傾けてはいけないということ。地震や津波の予測は自社の専門家に古文書の調査 を含め徹底的に調査させて、その結果に従って対応策を講じるべきである。

 参考にして頂ければ幸いである。

              「G研」代表


(次ページに続く)