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朝日新聞(2011年9月8日)


<教育・あしたへ(今こそ子どものために)>[2]


        原発授業の再出発


(その3)


   <本文転載>



 8月上旬、山梨大学を会場に「日本エネルギー環境教育学会」の全国大会 
が開かれた。「教師が原子力と向き合うための疑問点を解決しよう」と題さ 
れた分科会には、小中高校の教員や研究者ら約40人が集まった。     
                                   
 原発の是非について、学会は「基本的に中立」(事務局)と言う。だが、 
役員には、電気事業連合会の広報部長が名を連ねる。分科会では、原発メー 
カーの特別顧問らが「脱原発の流れは世界でごく一部」「年間100ミリシ 
ーベルト以下の放射線は喫煙よりリスクが低い」と説明した。       
                                   
 「理解できない人は親指を下に」と司会者が問うと、10人前後が合図し 
た。そのひとりの石川哲夫さん(61)は「福島第一原発の事故を受けて現 
場は本当に悩んでいる」と発言した。                  
                                   
 7月末まで福島県いわき市立小名浜第一小学校長だった。2008年度か 
ら資源エネルギー庁のエネルギー教育実践校に指定され、「資源が枯渇する 
中、火力、水力、原子力とバランスのとれたエネルギー供給が必要」と教え 
てきた。                               
                                   
 それが間違っていたとは思わない。だが、事故で原発の安全性への見方は 
変わった。「まさか爆発して人が逃げ惑い、住めなくなるとは。どれほどの 
被害が出るのかエネルギー教育の中で教えなければ」           
                                   
 文部科学省や資源エネルギー庁は、モデル校への補助金のほか、原発の利 
点の記述が多い副読本「わくわく原子力ランド」を作ったり、ポスターコン 
クールを開いたりして、毎年計10億円前後を注ぎ込んできた。      
                                   
 小中学校の教科書で原発を扱うのは主に中学の理科、社会。検定では80 
年代以降、たびたび意見がついた。04年度の中学公民の検定では「原発の 
問題点を強調しすぎ」「自然エネルギーの有望さを誇張しすぎている」など、
申請した全8社に意見がついた。教科書会社の編集者の一人は「原発推進の 
国策が検定に反映された」と受け止めた。                



 ◆「汚染」「廃棄物」も

                                                        事故を目の当たりにした今、原発やエネルギーをどう教えたらいいのか。                                       道立の札幌琴似工業高校の川原茂雄教諭(54)は、授業で掘り下げられ  ることの少なかった「放射能汚染」「放射性廃棄物」など5時間分の授業計  画をつくり、1学期に「現代社会」で指導した。5月からは「一般の人にも  考えてもらいたい」と出前講座を始め、小学生から高齢者までのべ千人に教  えた。                                                                      川原教諭は「廃炉や放射性廃棄物の処理など、自分たちの世代に押しつけ  られた課題から目を背けたい子も少なくないはず。だが、原発に向き合う力  を育てなければ」と話す。                                                             立命館宇治高校(京都府)の杉浦真理(しんり)教諭(48)は、様々な  資料を自分で分析し、政策を考えて社会に発信するよう求めた。宿題として、 米国が事故直後、原発から80キロ圏内の自国民に避難を勧告したことが正  しいかを調べさせた。「原発の真のコスト」や「自然エネルギーの代替の可  能性」についても発表させた。                                                           生徒同士のディベートの題は「日本は原発を順次廃炉にすべきか」。生徒  らは授業後、首相あてにエネルギー政策を提言する手紙を出した。     



 ◆教育委員会も動く

                                                          原発立地県を中心に、教育委員会も動き始めた。                                                  伊方原発のある愛媛県教委は8月、小中学校の教員に対し、文科省の副読  本を扱う際、地震対策は万全などの表現を使わないよう指導した。浜岡原発  が運転停止中の静岡県教委は、放射線の基礎知識に関する副読本を独自に作  る予定だ。                                                                    東京学芸大の三石初雄教授(63)=教育課程論=は事故後、研究者や学  校の教員らに声をかけ、原発教育の勉強会を立ち上げた。「多くの教師や研  究者が原発を避けてきた結果、政府や電力会社からの原発推進の一方的な情  報があふれた」との後悔からだ。                                                          全世界を揺るがすレベル7の事故。未曽有の犠牲を強いられて、やっと日  本の原子力教育は出発点に立った。