(その3)
島根半島北部、日本海に面して中国電力の島根原子力発電所がある。建設 が進む3号機は出力137万3千キロワットの国内最大級・最新鋭の原子炉 だ。 建設に新手法を採用した。工場や現地の平らな場所で、機器や構造物を大 きなブロックにしてから大型クレーンでてきぱきと組み上げる。工期の短縮 が狙い。本工事開始から約5年。来年末に動き始める。メーカーは日立GE ニュークリア・エナジー。原発の輸出を意識した建設のやり方に見える。 いま、世界は原子力ルネサンスだと言われる。中国やインドなど新興国の 経済発展に加え、地球温暖化対策が追い風になって、世界的に原発建設の意 欲が旺盛だ。これから20年間に、原発の数は今の2倍になるとの予測もあ る。島根3号が約270基もできる計算だ。 この成長市場の獲得に、米国やフランス、ロシア、韓国などが動く。日本 でも、電力会社とメーカー、関連のお役所が手を組み、オールジャパンで日 本製の原発を売り込む動きが出てきた。産業界が営業し、相手国への融資や 運転員の教育などで政府が助太刀する。 アジアや中東諸国がこれから原発を建てるつもりなら、日本製にしてくれ た方が安心だと思う日本人は多いだろう。ものづくり日本にとって新しい輸 出商品にもなる。 日本製原発の輸出は、とても良いアイデアに聞こえるが、ちょっと待て。 日本国内の原発稼働率は約66%と低い。3分の1は止まっている勘定だ。 電力会社の不祥事や地震の影響である。最新鋭の原発を建てている中国電力 にしてからが、規則違反の点検漏れで、定期点検中の島根2号と合わせて、 1号まで停止するありさまだ。 お隣の韓国の稼働率は90%を超える。韓国企業は先ごろ、日本勢を尻目 にアラブ首長国連邦で原発を初受注したが、その背景には彼我の稼働率の差 があるやもしれない。 日本は自らの温暖化対策のため、まず国内の原発稼働率を上げることを最 優先に考えるときだ。加えて、10年間で9基を新設する計画もある。外国 の仕事に派遣するほど十分な数の技術者がいるものだろうか。 技術者不足を言えば、それは世界の問題でもある。1986年の旧ソ連の チェルノブイリ原発事故以降、日本以外の先進国では原発建設が長らくふる わず、技術者の数が減っている。 年間10基を超える建設ブームの到来と言われても、人材確保の面で難儀 なことだと、国際エネルギー機関(IEA)の専門家も指摘する。 原発商戦が、われ先の競争であっていいものだろうか。原子力を安全に末 永く利用していくには、拙速の建設や準備不足はまずい。 ここは競争より連携が大事に思える。人材や技術、運転経験、トラブル情 報など、持てる国や企業が相互補完する。協力関係を結んで秩序だって、原 発の普及を進める必要があるのではないか。ライバル国に負けるなとばかり、 頭に血を上らせていてはいけない。 もうひとつ、気になる点がある。インド市場だ。インドは核不拡散条約に 加盟しないまま、核兵器開発に踏み切った。 にもかかわらず、米国はインドと協定を結び、原発を輸出する構えだ。使 用済みの核燃料からプルトニウムを取り出す再処理をインドが行うことも認 めた。これは「核兵器なき世界」を目指すというオバマ大統領の約束と矛盾 をはらむ。 日本国内にも、インドへ売り込みたいとの声があるようだ。世界の流れを みて、日本も米国にならってそろばん重視でいくのか。商売で損とわかって も筋を通し、より厳格な核物質の国際監視をインドに求めるべきなのか。ど ちらにせよ、雰囲気に流されず、きちんと議論をしてからかかる必要がある。 原子力は、電力部門の二酸化炭素(CO2)排出を減らすために大切な技 術だ。経済発展のため、今よりエネルギー消費を増やさざるを得ない途上国 にとって、原発建設は避けて通れない道だろう。 とはいえ、原発輸出は自動車や家電製品と同列に論じられない。放射性廃 棄物の問題は先進国でも解決ができていない。すべての原子力利用国が知恵 を絞り解決を目指す必要がある。 原子力に頼るだけでなく、自然エネルギーの利用技術も着実に伸ばし、原 子力に代替しうる存在に育てていく努力も、世界共通の課題だろう。 日本の原発商戦を応援したいが、速度制限を守って安全運転を心がけてほ しい。 |