2000年7月6日付朝日新聞[論壇]

  「原発増設の白紙撤回は可能だ」

   山本 寛(技術ジャーナリスト/静岡理工科大学非常勤講師)


 ドイツ政府がドイツ国内で運転中の原子力発電所を寿命の達した順に閉鎖し、新たな原子力発電所の建設はしないという決断を下したことは、朝日と日経の社説を取り上げて解説した。

 原子力に反対の朝日の主張は、「ドイツも止めたんだから日本も止めるべきだ」という主旨だった。それに反して日経のそれは「エネルギー事情はそれぞれの国内事情が違うんだから、原子力の選択もそれぞれが決めるべきもの」となっていた。我々は、もちろん日経の主張に同調した。

 今回は、朝日の「論壇」に技術ジャーナリストの肩書きを持つ山本寛氏の「原発増設の白紙撤回は可能だ」という見出しの意見を掲載している。その論旨には大いに意義あるが、その主なものを例によって指摘しておこう。

<1段目の終わりから2段目にかけて>

> 電力の自由化が進む欧米では、原発の採算性がかねてから問題だった。米
>国では、採算割れから原子力発電所の新設が絶えて久しい。欧州で原発大国
>を誇ってきたフランスも、昨年に稼働開始した原子炉を最後に、建設中、計
>画中のものはなくなった。
 アメリカでは、TMI事故以降、新規の原発の発注がないのは事実だが、それは規制の強化、反対活動の活発化、他のエネルギー資源(天然ガス等)の確保が可能になったこと等が主な原因で、原子力が採算割れしているからではない。逆に既存の原発の中でも運転性能の高い原発については、他の電源に比べて価格競争力があり、供用期間を延長して活用していく方針になっている。

 アメリカでは、運転管理の改善と技術の進歩でプラントの性能は大きく向上しており、98年の平均設備利用率は80%弱であった。そのうち、27の原子力プラントが90%以上という脅威的な高い設備利用率を達成した。もっともこれは、日本との規制の違いにより、アメリカでは定期検査の間の連続運転期間を13か月より長く運転できるからである。

 今後、さらに利用率を高めて平均が80%後半になれば、kWhあたりの平均コストは1.9セント程度となると見込まれている。また、新規原発についても、今後、小型炉を中心に新規設置の動きもある。

 フランスでは、次世代の軽水炉として、フランスとドイツなどが中心となって共同で推進してきたEPR(欧州加圧水型原子炉)プロジェクトを進めてきたが、現在そのプロジェクトが停滞しているのは事実である。その理由は、主として1997年の社会党−−緑の党−−共産党の連立政権による政治力学が主原因であり、原子力を電力の中心としていくフランスのエネルギー政策自体が変わっているものではない。

<2段目の終わりから3段目>

> 燃料電池は、天然ガスやメタノールから取り出した水素を電気化学的に燃
>焼させ、直接電気エネルギーを得る。発電効率が高く、火力発電所よりも二
>酸化炭素(C○2)の排出を抑制できる。その市場浸透シナリオが見えてく
>るにつれて、電力業界には新しい対応が始まろうとしている。

> 6月上旬、ドイツ電力業界最大手の一つRWE社が、天然ガスを燃料とす
>る燃料電池によるコージェネレーションの一般家庭への配備を中心に、20
>04年から発電構造を大幅に見直す計画であると伝えられた。今回のドイツ
>の決断を裏から読めば、電力業界としては原発を見限る潮時であったといえ
>よう。
 燃料電池については、現在、内外で期待する声がかなり高まっているのは事実だろう。しかし、我々専門家から見ればまだまだ克服すべき課題も多いのが現実である。

 実用化に向けては、耐久性の向上、コストの低減、水素製造技術の改良に加え、メタノール、天然ガスといった燃料の供給体制(インフラ整備)をどうするかといった広範な課題が残されている。

 ちなみに、コストについては、現在まだ高く、推進しているガス会社などは、2005年くらいには、kWあたり50万円強にしたいと言うのが目標であるが、全く目途は立っていない。現在の技術段階では、相当のブレークスルーが必要というのが一般的な見方である。

     (次ページに続く)