日本経済新聞(2006年8月28日)

<Q&A ニッキィの大疑問>

原発 いまなぜ脚光?

(その2)


 <本文転載>


 <前 文>                            
                                  
 原子力発電が再び注目されているとか。原油価格が上がって石油の発電 
がコスト高になった影響かな。でも、長い目で見て本当に必要?     
                                  
 原子力発電を再評価する動きが世界的に広がっている。原発は1986 
年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故以降、長く低迷してきたが、 
どんな変化があったのだろうか。新井理恵さん(37)と小沢美佳さん  
(44)が産業部の後藤康浩編集委員に聞いた。            
                                  
          ◎          ◎            
                                  
 ▼まず、原発の特徴を教えてください。               
                                  
 「電力をつくるエネルギー源にはいろいろありますが、電力消費量の多|
い先進国が安定して頼れるのは四つといわれています。石油、石炭、天然 
ガス、原子力です。風力は風頼みで安定せず、水力も渇水になったら動き 
ませんからね」                           
                                  
 「四つのうち原子力を除く三つは化石燃料です。燃やして発電するため、
二酸化炭素(CO2)などの温曖化ガスが発生します。これに対し、原発 
は核分裂で生じるエネルギーを使うためCO2は出ません」       
                                  
 「効率のよさも特徴です。例えば、百万キロワット級の発電所を一年間 
稼働させるのに必要な燃料の量は、石炭は年間200万トン、石油は17 
0万トン、天然ガスでも110万トンといわれます。これに対し原発は  
21トンのウラン燃料で済みます」                  
                                  
 ▼利点があっても、やはり危険な印象が・・・。           
                                  
 「商業用の原発は1950年代に英国で初めて稼働しました。以来、半 
世紀にわたる実績があります。きちんと運転し、保守・点検していけば大 
丈夫と関係者は自信を持っています」                 
                                  
 「確かに、チェルノブイリ原発事故では大勢の人が犠牲になりましたが、
この事故は明らかに異常な運転の結果です。一般の原発では通常、起きえ 
ない特殊事例としかいいようがありません。ただ、これを機に世界中で反 
原発の世論が高まり、多くの国が原発新設をやめたり、運転中の原発を一 
定期間後、廃止するといった決定をしました」             
                                  
 「それがここにきて流れが変わり、米国、英国などが相次いで原発推進 
に方針を転換しています。7月の主要国首脳会議でも原子力推進で一致し 
ました」                              
                                  
 ▼なぜ今になって原発が脚光を? やはり原油高騰のためですか。   
                                  
 「確かに石油や天然ガスの価格はこの2、3年急上昇しています。中国、
インド、米国をはじめ世界的にエネルギー需要が増え続けているため、い 
ずれ化石燃料が足りなくなるのでは、との懸念も出ています。そのため化 
石燃料以外のエネルギーの確保を急がなければなりません」       
                                  
 「もう一つ、地球環境問題もあります。97年に採択された京都議定書 
で、各国は温暖化ガスの排出削減目標を決めました。日本の目標は90年 
段階よりも6%減らすことです。達成するには化石燃料にこれ以上頼れま
せん。そこで各国は競うように原発に力を注ぎ始めています」      
                                  
          ◎          ◎            
                                  
 ▼日本ではどうなっているのですか。                
                                  
 「電力会社がそれぞれ原発を増やそうとしています。たとえば最大手の 
東京電力は、発電量に占める原発の割合は現在33%程度ですが、201 
4年には50%弱に高める計画です」                 
                                  
 ▼計画どおり進んでいるのですか。                 
                                  
 「必ずしもそうとはいえません。今ある原子力発電所の敷地内に増設す 
るのなら比較的スムーズでしょうが、新たな場所を確保するのは非常に難 
しくなっています。地域住民や漁業関係者など多くの人々の理解や承諾を 
得る必要があるからです。一から始めるとなると、完成まで30年はかか 
るといわれています」                        
                                   
 「初期に稼働を始めた原発が次第に老朽化しており、2020年代後半 
から30年代にかけて更新期を迎えます。ずいぶん先のようですが、原発 
の新設に30年かかることを考えると、時間はそれほどありません。原油 
価格が上がったから原発といった短期的な考えではなく、将来世代にどん 
なエネルギー源を残しておくか、地球環境への負荷をどう低減するか、な 
ど長期的視点が必要です。原発は今後、ますます重要になるといえるでし 
ょう」                               

 



           ◎紙面ナビ◎                 
                                  
 ここ数カ月の間に、原発政策の転換を示す大きな記事が紙面をたびたび 
飾りました。たとえば7月12日付国際面には「英、原発新設再開へ」、 
やや古いですが6月23日付一面には「日立・GEが米で原発受注、30 
年ぶり新設へ」という記事が載りました。総合面や企業面にも関連記事が 
よく掲載されます。                         
                                  
 電力会社は事故につながらない小さな原発トラブルも公表する姿勢を取 
っています。周辺住民をはじめ社会の関心が高いためです。これらの記事 
は社会面に載ります。                       

 


 <ちょっとウンチク>                       
                                  
        使用済み核燃料、処理が課題             
                                  
 原子力ではウランの転換、濃縮、加工といった燃料の調達以上に原子炉 
で燃焼した後の使用済み核燃料の処理が大きな問題となる。使用済み核燃 
料には放射性物質が含まれており、簡単に捨てるわけにはいかない一方、 
まだ燃料として使える物質が含まれているからだ。           
                                  
 世界では使用済み核燃料をそのまま廃棄する「ワンズ・スルー」という 
やり方と、腰料として利用可能なプルトニウムを取り出し再利用する。  
                                  
 「核燃料サイクル」という二つの路線がある。ワンス・スルーでは深度 
300メートルといった地下深くの安定した地層に、ガラスで固めたうえ 
厚い金属容器に封印した使用済み核燃料を貯蔵する。ただ、周辺住民の反 
対などで処分場の確保が難しい。一方、サイクルでは使用済み核燃料を専 
用の再処理プラントでせん断、溶解し、プルトニウムを抽出する。プルト 
ニウムは一般の原子炉の中でも自然に発生し、燃料になっているが、再処 
理して得たプルトニウムはウランと混ぜて新たな燃料にされる。再処理で 
得たプルトニウム燃料を一般の原子炉で利用することをプルサーマルとい 
い、2010年にも日本でスタートする予定だ。 (編集委員 後藤康浩)