朝日新聞、2000年2月29日付け「社説」

     [アラ石の失敗] 交渉力を強めるには


 サウジアラビアと交渉してきた石油の採掘権の更新は失敗した。その失敗に対して各紙は論説を張っている。中でも2月29日付の朝日新聞の「社説」は注目に値すると思った。

> サウジアラビアに対して、相手をうならせるバーゲニングパワー(交
>渉力)に欠け、ただカネを積み上げるしかなかった。
> アラビア石油が採掘権更新に失敗した原因は、そこに帰結するのでは
>ないか。
 朝日が主張されている「バーゲニングパワー」とは、(1)石油の購買力、(2)石油に替わるエネルギーの開発、(3)エネルギーごと、地域ごと、資源国ごとのグランドデザインの描写、(4)中東依存度を下げるための輸入相手地域の多角化、(5)中東の産油国の中での多角化、としている。

 (1)の「購買力」だが、「うちはお宅との付き合いも長く、ずいぶん買ってあげましたね。これからもお宅に絞って買ってあげますから、採掘権を更新して下さいよ」とでも外交交渉で言うのだろうか。

 (2)の「石油に替わるエネルギー」に原子力を含めるのかどうか具体的な記述がない。あるのは燃料電池だけのようだ。電力の40%を原子力で賄っている日本で、少なくともこの21世紀半ばくらいまでは、石油に替わるエースは原子力以外にない。

 (3)の細分化して描くことを示唆している「グランドデザイン」とは意味不明である。

 (4)中東以外の産油国といえば中南米やアフリカだろうが、そういう地域との長期契約で原油を買い付ける企業に対し政府が補助金を出している韓国を見習え、ということらしい。しかし、自由な経済活動に「補助金」を当てにするようでは、先進主要国首脳会議(サミット)に参加する資格はない。

 (5)同じ中東の中でもいろいろな産油国があり、輸入相手国の多角化を図れということのようだ。例えば、イランは日本向け輸出量を増やしたいのに、イラン制裁を続けるアメリカに気がねしてイランからの輸入量を増やしていない。今後はイランなどからも、何処に気がねすることなく輸入せよ、という主張だ。

 どれもこれも無茶苦茶な提案である。そのような手法など、外交交渉に使えるはずがない。

 そもそも今回の採掘権更新を巡る交渉で、サウジが強気に出た最大の要因は、日本の原子力開発の遅れである。特に朝日新聞が取ってきた一連の「原子力モラトリアム論」が、サウジの在日大使館などを通じて本国に報告されていることは間違いない。

 「日本の原子力は相当遅れるだろう。また石油に頼らざるを得ない。よって相当強気に出ても成功する」といういとも単純な三段論法が成立している。ただ一つ、サウジが判断ミスを犯したとするなら、「日本株式会社」のような、民間企業と政府、特に通産省との関係がかつてのように緊密でなくなってきていることだろう。

 今回の石油をテーマにした論議を展開するとき、原子力を無視しては相当無理が生じてくる。小資源国、日本のエネルギー政策の中で、石油への依存度、中東への依存度を下げることが基本だが、省エネルギー、自然エネルギーの開発だけでは際だった効果が出るまでにはまだ数十年かかるだろう。

 また、石油への依存度を下げるのは、日本のような小資源国に限ったことではない。地球温暖化防止のため、化石燃料を燃やすことはできるだけ減らさなければならないことは人類存亡に関わる世界共通の悲願だからだ。

 石油は貴重な資源、燃やしてしまうだけではいかにももったいない。また、石油はその利用が便利なるがゆえ、できるだけ開発途上国にまわしてあげる気配りが国際社会では重要で、「購買力」を武器にして交渉しろとは言語道断である。

      「G研」代表