朝日新聞(2005年1月1日)

[京都議定書 発効へ]

(その6)


[ロシア]                             
                                  
      政治・外交交渉に利用                  
                                  
 ロシアにとって京都議定書は、環境問題ではなく政治・外交カードとし 
てとらえられている。プーチン政権は強権支配に対する欧米の批判をかわ 
し、世界貿易機関(WTO)への加盟を有利にするため、議定書批准を最 
大限に利用した。温暖化ガスの排出枠には相当の余裕があるが、これをど 
う扱うか政府内にも統一見解はない。排出量取引でしたたかな交渉をする 
ことも考えられる。                         
                                  
 ロシアは90年代からの景気後退と省エネ対策により03年のCO2な 
どの排出量が90年時の72%にまで減った。政府試算ではロシアの排出 
余剰量は、森林の吸収分を含めると約30億トンある。         
                                  
 最大の温室ガス排出企業であるロシア統一電力機構と、資源開発会社ガ 
スプロムだけでロシア全体の排出量の3分の1を占めるが、両者グループ 
は、12年までに90年時の12%から最大45%の削減が可能とする経 
営計画を政府に提出した。                      
                                  
 両者を中心とする産業界の狙いは、企業努力で捻出した余剰枠を売買し 
て古い設備を更新するか、投資をロシアに呼び込む戦略資源とするよう政 
府に働きかけることだ。しかし排出ガスがいくらで売れるか分からないう 
え、政府内では目標の「経済成長年6%以上」を損なわないか検討が始ま 
ったばかり。「捕らぬタヌキの皮算用」は産業界で先行している。    
                       (モスクワ=嶋田数之)
 京都議定書に謳われたロシアの削減目標は、1990年を基準に0(ゼロ)、つまり90年より増やさなければいい、ということになっている。米国の7%削減、EUの8%削減、日本の6%削減と比べると、ロシアの0%の現状維持は、まったく緩い義務規定といわざるを得ない。

 にもかかわらず、ロシアの京都議定書の批准は、離脱した米国を除いて一番最後になった。そのわけは、「プーチン政権は強権支配に対する欧米の批判をかわし、世界貿易機関(WTO)への加盟を有利にするため、議定書批准を最大限に利用した」ということのである。

 「ロシアは90年代からの景気後退と省エネ対策により03年のCO2などの排出量が90年時の72%にまで減った。政府試算ではロシアの排出余剰量は、森林の吸収分を含めると約30億トンある」

 ロシアの排出余剰量の30億トンは、2002年の日本の排出量が13億トンだから、その倍はあるということになる。何か不公平な気がするのは我々だけだろうか。

 「両者を中心とする産業界の狙いは、企業努力で捻出した余剰枠を売買して古い設備を更新するか、投資をロシアに呼び込む戦略資源とするよう政府に働きかけること」

 あらゆる努力して省エネやCO2排出削減に取り組み、1990年頃にはその成果を上げる一方、世界第2位の経済大国にまで押し上げた日本が、そこからまだ6%もの排出削減を測らなければならない。

 一方のロシアは、統制経済のソ連から自由経済のロシアに移行したとはいえ、環境問題や省エネには目もくれず、ひたすら経済発展のみもくろんできたころの1990年を基準に、削減義務を課さないとは、京都議定書が多くの問題をはらんでいる証拠である。

 つまり、1990年のロシアは、日本で川崎や四日市で公害問題が噴出していたころに匹敵する。その1970年の排出量がいくらあったか、いま手元にデータがないので不明だが、そのころを基準に削減目標が立てられるなら、日本は6%どころか、ロシアが試算している45%も可能ではないだろうか。

(次ページにつづく)