[ウェーブ・時評]

          

リスク規制分野の行政改革

                 近藤 駿介         
                  こんどう・しゅんすけ=東大大
                 学院工学系研究科教授。新型原子
                 炉の設計、運転管理、リスク管理
                 等を研究する、原子炉工学や安全
                 工学の第一人者。著書も数多く、
                 現在原子力委員会の参与なども務
                 める。北海道出身、59歳。 
<その1>


 定年間近のこの年になって、学部学生を対象に「安全学」という講義を
開講した。序論の講義の後、身の回りのリスクについての関心事を学生に
アンケートすると、そもそもリスクという量概念を理解しようとしないも
の、経験した被害の再発防止や時節柄かフーリガン対策が関心事だとする
もの、リスクを定量化することに嫌悪感を示すもの等の多いことが気にな
った。これから半年で、人類は人、もの、自然の振る舞いには不確かさが
存在することを前提として、これらに伴うリスクを賢く管理しつつ生きて
いく必要があること、ものの供給者には自らの作物のリスクを小さくする
一方、使用者に残留リスクを説明する責任があること、そのためにはリス
クアセスメントを行い、これを踏まえて効果的かつ効率的なリスク管理を
行う必要があることを伝える積りであるが、終了時にこの反応がどのよう
に変化するだろうか。                       
 原子力の安全論争において、推進派と反対派の間で噛み合わないそもそもの要因は、リスクの定量化が可能か否かで分かれているところにある、と我々は考えている。すなわち、推進派の我々は、安全レベルがいかほどなら受け入れていただけるか、と問いかけているが、反対派は全ての市民が安心できる程度の絶対安全でなければならない、と主張する。

 この「全ての市民が安心できる程度」というのは、まったく漠然とした表現で、定量化された表現ではないから、議論は何処まで行っても平行線を辿るだけで、決して交わることがない。

 リスクを定量化してその安全性を評価する手法は、確率論も含めて学術的に確立された手法なのだが、一般的には馴染みがない。馴染みが薄いが故に、馴染みが薄い技術の安全性は、その相乗効果(?)でますます説明が難しい、ともいえよう。

 このリスクの定量化を教える「安全学」が東京大学にはじめて開講されたという。わが国における「安全工学」の第一人者である近藤駿介教授によって、まず東大の学部の学生に教えることになり、喜ばしい限りだ。

 その近藤先生自ら、「安全学」のさわりを開示して下さっている、この電気新聞のコラム「ウェーブ」を先ずは取りあげないわけにはいかないだろう。近藤先生の日常の教える対象が、超優秀な学生集団、東京大学の学生だから、先生のここでの解説も、一般の人たちには多少難しいと思うが、何度も読み返して理解を深めてもらいたい。

 よって我々のコメントは必要最小限に止めることにする。

            (次につづく)