東日本大震災の大惨事を例に挙げ、「天災が文明の崩壊につながる可能性はな いのですか」というインタビューアーの質問に対するダイアモンドさんの回答で ある。
大事故や大惨事といった事象を経験すると、「人々はリスクを過大評価しがち」 だと注意を喚起されている。そして昨年の3.11の地震や津波について、「長 期的にはずっと多くの人々が、交通事故、たばこ、お酒、塩分の取りすぎが原因 で死亡」しているではないか、もっと大局的に見るよう勧告されている。
「けっして福島の悲劇を軽んじるつもりはありませんが、原発事故もまた 『リスクが過大評価されがちな事故』の典型例です。私たち米国人もスリー マイル島原発の事故の後、1人の死者も出なかったのに、新しい原発の建設 をやめてしまいました。それはあやまちだったと思います。原子力のかかえ る問題は、石油や石炭を使い続けることで起きる問題に比べれば小さい、と 考えるからです」
いよいよ福島原発事故に対するダイアモンドさんの感想を聞いているが、その 回答が上のパラグラフである。
「原発事故もまた『リスクが過大評価されがちな事故』の典型例」と断じてい る。そしてTMI原発事故で「1人の死者も出なかったのに、新しい原発の建設 をやめてしま」ったのは米国の「あやまちだった」と明確に主張されている。
新規原発の建設を止めてしまったのが何故「あやまちだった」か、それは「原 子力のかかえる問題は、石油や石炭を使い続けることで起きる問題に比べれば小 さい、と考えるから」とこれまた明確に論じている。
「石油や石炭を使い続けることで起きる問題」とは、二酸化炭素の排出で地球 温暖化がますます進む問題であることは明らかだ。
「たとえ原子力の利用をやめたとしても、しばらくは化石燃料にたよらざ るをえません。過去70年間、放射能で健康を損ねた人よりもはるかに多く の人々が、化石燃料を燃やすことによる大気汚染の被害に苦しんできました」
「放射能で環境が汚染されるリスクがあっても、原発を使い続けた方がよい、 ということですか」と重ねて聞いている。それに対する答は上のパラグラフであ る。
すなわち、例え今すぐ原発を止めたとしても、再生エネルギーなどはなかなか 戦力にはなり得ず、「しばらくは化石燃料にたよらざるをえません」から、化石 燃料を使ってきた「過去70年間」と同じように「化石燃料を燃やすことによる 大気汚染の被害に苦し」むことになる。この被害者の方が、「放射能で健康を損 ねた人よりもはるかに多」いのである。
何とも小気味よい自信に満ちた論法であろうか。
「確かにその通りですが、放射能の危険性と同時に、化石燃料の危険性も
考えるべきです。二酸化炭素による地球温暖化はすでに、大きな被害をもた
らすサイクロンなどの熱帯低気圧を増やしています。放射性廃棄物は地下深
くに封じこめられますが、放出された二酸化炭素は200年間は大気中にと
どまるのです」
「いま一度、『現実的になろう』と言わせてください。原発事故や地震で、
文明が続く可能性がそこなわれることはありませんが、二酸化炭素は現代文
明の行く末を左右しかねない問題なのです」
「放射能は人間の遺伝子を傷つけ、子どもたちへの影響が心配です。放射性廃 棄物は10万年以上もの間、危険な放射線を出し続けます」とインタビューアー は執拗に追求している。これに対するダイアモンドさんの冷静沈着な反論は上の パラグラフである。
「化石燃料の危険性」をもっと深刻に考えるべき、というのが、ダイアモンド さんの一貫した主張である。化石燃料の消費で排出される二酸化炭素は、地球を 取り巻く大気中に200年間はとどまり、地球温暖化をもたらす。この温暖化の 影響はサイクロン、台風といった熱帯低気圧の発生を増やすなど、すでに大きな 被害をもたらしている。
一方の原発から排出される「放射性廃棄物は地下深くに封じこめられ」るとい うことも、この地理・歴史学者のダイアモンドさんはよくご存じなようである。
そして「原発事故や地震で、文明が続く可能性がそこなわれることはありませ んが、二酸化炭素は現代文明の行く末を左右しかねない問題なのです」と少々回 りくどい翻訳文になっているが、簡単に表現すると、以下のようになる。
原発事故や地震で文明の存続が危ぶまれることはないが、二酸化炭素による地 球温暖化の問題は、現在、地球上に存続してきた文明の行く末を危うくしかねな いほど重大な問題なのである。