一般的に政治の動向は、マスコミが展開する世論調査などの結果にとかく影響 されるもののようであるが、グローバルでロングレーンジに判断しなければなら ないとされるエネルギー政策だけは、高度な専門知識を駆使した冷静な判断が重 要である故、大衆の感情に振り回されることだけは避けねばならない。
さて、上に掲げた大別して3つの提言を詳細に見てみよう。
先ず@の「脱原発に決別すべき」とした理由は、「電力をはじめとしたエネル ギーの安定供給は、豊かな国民生活の維持に不可欠」にも関わらず、「福島第一 原子力発電所の事故に伴い定期検査で停止した原発の運転再開にメドが立たず、 電力不足が長期化している」からである。
「電力を『経済の血液』と位置づけ」ている野田首相なら、「『脱原発依存』 を掲げた菅前首相とは一線を画」して、「『脱原発』に決別すべき」と提言して いるのである。
提言Aの「安全性が確認された原発の再開に向け最大の努力をすべき」とする 理由は、次のパラグラフで言及しているとおりである。
「全国54基の原発で動いているのは11基だ。再稼働できないと運転中の
原発は年末には6基に減る。来春にはゼロになり、震災前の全発電量の3割
が失われる」
「そうなれば、電力不足の割合は来年夏に全国平均で9%、原発依存の高い
関西電力管内では19%にも達する。今年より厳しい電力制限の実施が不可
避だろう」
長期にわたる電力不足は、次のような結果になるだろうと予測される。
「不足分を火力発電で補うために必要な燃料費は3兆円を超え、料金に転嫁 すると家庭で約2割、産業では4割近く値上がりするとの試算もある。震災 と超円高に苦しむ産業界には大打撃となろう」
つまり、日本のとくに産業界は、震災と超円高、それに電力不足という三重苦 に苦しめられるということになる。産業界が日本国内で苦しめば、海外への移転 も加速するであろうから、産業の空洞化と失業率の急上昇は確実に起こるだろう。
電力不足だけは何としても阻止しなければならないということが明白であろう。 そのためには、安全性が確実に確認されているにも関わらず、地元の了解が得ら れないため運転再開ができない原発を、政府が誠意をもって地元を説得して運転 再開に漕ぎ着けるべきだろう。
提言Bの「高性能で安全な原発をこれからも新設していくという姿勢を崩すべ きではない」は、これからも原発の増設を計画している新興国に対して「日本が 原発を輸出し、安全操業の技術も供与することは、原発事故のリスク低減に役立」 たせなければならないからだ。
「原発がなくなっても自然エネルギーと省エネで十分やっていける」という考 えもあるが、それは非常に危険な主張である。その理由は次のパラグラフで言及 されている。
「政府は現行の『エネルギー基本計画』を見直し、将来の原発依存度を引き
下げる方向だ。首相は、原発が減る分の電力を、太陽光など自然エネルギー
と節電でまかなう考えを示している」
「国内自給できる自然エネルギーの拡大は望ましいが、水力を除けば全発電
量の1%に過ぎない。現状では発電コストも高い。過大に期待するのは禁物
である」
「原発が自然エネルギーの普及を疎外している」といった極端な考えもあって 「原発さえなくなれば、自然エネルギーは格段に普及するだろう」といった主張 に繋がっている。
はたしてそうだろうか。原発を安定的に運転させていれば、電力も余力を持っ て高価な自然エネルギーによる電気の買い取りも可能になるというものだろう。 また、自然エネルギーが自立できるまでに発展すれば、その時こそ原発は引退す る時であり、大手を振って「脱原発」の道を歩み出すであろう。
つまり「はじめに『脱原発』ありき」ではなく、「自然エネルギー」なり「代 替電源」の確保なりが見通せるようにするのが先決であろう。
いまひとつ、「新設原発の選択を早々と諦めるべきではない」とする理由は、 防衛に関わる問題が挙げられている。
「日本は原子力の平和利用を通じて核拡散防止条約(NPT)体制の強化に 努め、核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こう した現状が、外交的には、潜在的な核抑止力として機能していることも事実 だ」
日本は核拡散防止条約(NPT)に加盟して核査察を全面的に受け入れている が故に国際社会から「核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められて いる」のであって、この事実が「外交的には、潜在的な核抑止力として機能して いる」ということになる。
つまりプルトニウムの利用まで認められた原子力の平和利用を自ら止めてしま えば、核拡散防止条約体制への参画自体意義が低下することとなり、「潜在的な 核抑止力」も機能しなくなるといった懸念が国際社会に浮上することに繋がると いう見方である。これぞまさしく「ゆゆしき問題」であろう。
「G研」代表