■これは同感できるG情報■


日本経済新聞(2011年7月4日)


<1面トップ記事>


[景気、重荷抱え再浮揚]


      電力不足・政治に懸念


                       生産、震災前の水準に


(その2)


   <本文転載>


 東日本大震災から3カ月半。被災地はなお厳しい状況だが、日本経済は急 
激なショックによる落ち込みから再び浮揚し始めた。原動力は部品のサプラ 
イチェーン(供給網)復旧に伴う生産や輸出の持ち直しだ。だが電力不足の 
懸念は西日本にも広がり、頼みの海外経済には変調の兆しがみえる。景気が 
回復軌道に復帰するには、いくつもの試練を乗り越えなければならない。  




 ■現場力発揮■供給が回復■

                                                      トヨタ自動車グループの関東自動車工業。被災した岩手工場(岩手県金ヶ  崎町)で6月、期間従業員100人の募集が始まった。                                                震災で操業停止に陥った同工場。だが、グループを挙げて設備や部品供給  網の復旧を急いだ結果、6月には稼働率が9割程度まで回復した。震災前の  計画通り、年末には小型ハイブリッド車(HV)の組み立てを始める予定。  期間従業員の採用はさらに増える可能性もある。                                                   「生産は7月以降、年初計画の水準を回復する」(トヨタの豊田章男社   長)。正常化の時期は震災直後の想定よりも大幅に早まる。                                              東日本の工場被災で寸断した部品供給網。生産は日本全国のみならず、北  米や東南アジアでも滞った。だが企業は「現場力」を発揮。3月に過去最大  の落ち込みとなった鉱工業生産指数は震災前水準の回復が視野に入ってきた。                                      「年度下期の受注は急増するのではないか」。自動車電装品大手のミツバ。 阿久戸庸夫社長は主力工場に、パワーウインドー向けモーターなどの在庫積  み増しを指示した。電炉大手の東京製鉄には自動車向け鋼板の出荷要請が相  次いでいる。                                                                   生産回復を受けて、輸出も持ち直してきた。震災ショックが癒えてきたの  は家計も同じだ。                                                                 百貨店の三越や伊勢丹を抱える三越伊勢丹ホールディングス。首都圏の郊  外店を中心に、主力の国内百貨店の売上高は4月以降、計画を上回り続けて  いる。「震災後、都心ではなく、近場で買い物をする人が増えている」(石  塚邦雄社長)                                                                   都内の金券ショップでは東京−新大阪間の新幹線回数券の価格が上昇に転  じた。プリンスホテルでは、震災でキャンセルした宴会やパーティーを9月  以降に再予約する動きが出てきた。自粛ムードが和らぎ、人が出張や旅行・  レジャーなどに再び動き始めている。                                                        「節電消費」も広がる。東芝ホームテクノ(新潟県加茂市)が5月に発売  した省エネ型の最新扇風機。2万5000円もするが注文が殺到し、月50  00台だった出荷計画を2倍に引き上げても供給が追いつかない。                                           震災の影響で、日本経済は今年4〜6月期も3期連続となるマイナス成長  に沈んだもようだ。だが想定より早い企業と家計の立ち直りで、7〜9月期  はプラス成長に浮上する公算が大きい。                                                       問題はその後。財政赤字の膨張や少子高齢化などの構造問題に加え、震災  後の日本経済は新たな成長制約を背負い込んだからだ。                                                最大の制約は列島に広がる電力不足への懸念。東京電力福島第1原子力発  電所の事故をきっかけに、点検停止中の原発の運転再開に地元自治体が反対  姿勢を強める。日本経済研究センターの試算では、すべての原発が運転を再  開しなかった場合、工場稼働率の低下などで日本経済には年7.2兆円の損  失が生じる。                             




 ■米経済変調■中国も難局■

                                                      深刻なのは電力不足への懸念が、円高や高い法人税率を背景に進む産業空  洞化を加速しかねないことだ。                                                           日立金属の真岡工場(栃木県真岡市)。夏場の電力制限を受け、自動車向  け鋳物部品の生産の一部を米国と韓国のグループ工場に移管した。同社は日  本の電力需給が平時に戻っても、米韓での生産を主軸にする方針だ。                                          「日本経済の潜在成長率が低下するリスクがある」。日銀の白川方明総裁  は、電気料金の上昇が日本でのモノづくりのコストを高めると懸念する。日  本企業の国際競争力が下がるだけでなく、海外企業も日本への投資を敬遠し  かねない。                                                                    第2の制約は海外経済の変調。中でも米景気がもたついている。「全米で  200店舗を閉鎖する」。6月、米衣料品大手ギャップのマーフィー最高経  営責任者(CEO)は大規模なリストラを発表した。住宅価格の二番底懸念  やガソリン高で、消費に勢いがつかない。                                                      中国ではインフレが止まらず、豚肉の値上がりは前年比4割に達した。北  京や上海では住宅価格の高騰が続く。当局は利上げなどで物価安定を狙うが、 成長との両立は難しい局面を迎えている。                                                      欧州ではギリシャなどの財政不安がぬぐいされない。中東・北アフリカの  政情不安も長期化している。ギリシャ国債の債務不履行などが現実になれば、 金融市場の動揺を通じて世界景気を下押しするのは確実だ。                                              そんな内外のリスクを前に、迷走を続ける政治こそが第3の制約だ。政府  の復興構想会議はようやく提言をまとめたが、菅直人首相の「居座り」で、  本格的な復興対策を盛り込む今年度第3次補正予算案の編成は秋以降にずれ  込む。                                                                      「復興には様々な規制を外す特区が必要。国には相当な規制緩和を覚悟し  てもらいたい」。福島県の佐藤雄平知事は訴えるが、政権運営は混迷を深め  るばかり。今年後半から景気を押し上げるはずだった復興需要は逃げ水にな  っている。                                                                    未曽有の国難の下で苦闘する日本経済。政治のリーダーシップの漂流が民  の活力を損ない続けている。             (景気動向研究班)