【同感できるG情報】


日経ビジネス(2010年1月18日)


<特集>


   原発漂流


        民主が抱えるもう一つの「普天間」


(その8/12)


<企業編>


 <本文転載>


<企業編>

                                                           

   もう国には頼れない

                                                     原子力政策の不確実性が高まる中、原発企業はどんな方策を取ればいいのか。 需要が想定より伸びないとすれば、あまねく果実が行き渡ることはない。   国に頼らずに、緻密なグローバル戦略を描けるかどうかが優勝劣敗を分ける。




 「東芝さんはむちゃをしてるんじゃないか」。ある原子力業界の重鎮が冷 
ややかとも、心配げとも取れる複雑な表情を浮かべながら、こう言った。  
                                   
 東芝が、2006年に米ウエスチングハウスを買収し、それ以降も原子力 
事業への積極投資を続けているからだ。「世界の原発計画の行方を楽観視し 
過ぎると、どこかで痛い目に遭う」。                  
                                   
 しかし、東芝は何も世界の原発計画を鵜呑みにしているわけではない。各 
国の計画の真贋、潜在的なリスクを必死になって見極めようとしている。  
                                   
 2009年12月。東芝で電力システム社社長を務める五十嵐安治・執行 
役上席常務は、ブルガリアに飛んだ。旧ソ連製の火力発電設備4基で受注し 
たタービン発電機の改修工事が完了し、関係者を表敬訪問するためだった。 
                                   
 その訪問先である閣僚からささやかれた。「次の新設の時は、よろしくお 
願いしますよ」。同国唯一の原子炉を持つコズロドイ発電所での新設案件の 
打診であった。                            




 東芝、米子会社がうがつ新市場

                                                     東欧で原発建設の実績がない東芝に、なぜ政府関係者が関心を示すのか。                                       過去に旧ソ連製の原子炉6基を導入したブルガリアは欧州連合(EU)の  安全基準を満たすため、2007年までに4基を閉鎖した。稼働しているの  は5、6号機だけだが、その制御システムは、東芝の子会社であるウエスチ  ングハウスが取り換えたものだったのだ。                                                      東芝はブルガリアでのウエスチングハウスの実績をさほど明確には認識し  ていなかったが、既に東芝グループとしてパイプが通じていた。五十嵐執行  役上席常務は「ウエスチングハウスのネットワークは目を見張る広さだ。世  界各国を回るたびに、その威力に驚かされる」と話す。                                                ウエスチングハウスの入札を巡っては、約6400億円という破格の一番  札で、当時、提携関係にあった三菱重工業を蹴落とした。これで、一気に世  界トップの原発メーカーにのし上がった東芝グループは、現在、運転プラン  トシェア(設備容量ベース)で28%を占める。                                                   原子炉はBWR(沸騰水型軽水炉)とPWR(加圧水型軽水炉)の2方式  に分かれる。東芝はBWR、ウエスチングハウスはPWRを手がけ、東芝は  両方式を掌中に収める比類なき存在となった。PWR陣営でありながら敗れ  た三菱重工の首脳陣は「今でも切歯扼腕(せっしやくわん)して悔やんでい  る」(関係者)と言われる。                                                            ただ、東芝は2つの技術を獲得した以上に、ウエスチングハウスのネット  ワークのうまみを享受している。                                                          ウエスチングハウスが世界に持つ拠点は約50カ所。このうち燃料の成型  加工工場は5カ所に達する。2007年にはウランの供給ルートを拡大した  いカザフスタンの国営企業の出資も呼び込む一方、東芝はカザフのウラン鉱  山権益を一部獲得。これが呼び水になって2008年にはロシアの国営企業  アトムエネルゴプロムとも濃縮ウランの合弁生産などを検討することで合意  した。                                                                      これで、東芝はウラン採掘から濃縮、燃料加工までを手がける一貫体制構  築に弾みをつけ、資源や燃料の調達ルートを広げることができた。燃料供給  や改修工事など、数十年にわたって安定的な収益が見込めるようになる。  




 想定上回った果実

                                                     世界中に蜘蛛の巣のように張り巡らされたウエスチングハウスのネットワ  ーク。それは当時、執行役常務として買収交渉の陣頭指揮を執った佐々木則  夫社長の期待を上回るものだったようだ。佐々木社長は「ウエスチングハウ  スがなければカザフとも提携できなかったし、ロシアも近づいてこなかった  だろう」と振り返る。                                                               東芝がウエスチングハウス買収に名乗りを上げた当時、米ブッシュ政権が  原発推進路線に舵を切り、世界的にも原発需要増の期待感が高まっていた。                                       しかし、リーマンショック以降、世界経済は混迷を極め、米国では原発新  設にまで投資資金が潤沢に回らない事態が発生。日本の原子力外交の動きも  鈍く、先行きを楽観視できなくなった。                                                       東芝が乾坤一擲の勝負をかけていなければ、どうなったか。パイが想定よ  り伸びなければ、そのまま縮小均衡に陥っていたに違いない。リスクと真正  面から向き合ったからこそ、その見返りとしてウエスチングハウスの国際ネ  ットワークを享受できたのである。                                                         アレバになりたい会社−−。東芝は時として、競合企業から冷ややかな視  線を浴びる。フランスのアレバはウラン採掘から原発建設、そして使用済み  燃料の再処理まで一貫して手がけ、その強みを生かして世界展開してきた。  東芝は同じような体制を築くことを目指しているという見方だ。                                            佐々木社長はこの見方に真っ向から反論する。「アレバは事実上の国営で  あり、電力会社とも一体となった国家的なビジネスモデル。だが、我々は純  粋なプライベートカンパニーだ。アレバにはない柔軟性で勝負していく」。                                       佐々木社長の真意を読み解くと、こうなるのではないか。                                              産官一体となったアレバの戦略は原子力政策と不可分であり、グローバル  展開していると言っても、その姿は生粋の仏企業だ。むしろ東芝・ウエスチ  ングハウス連合は融通無碍に打つ手を選び、世界的に自陣の網を広げて、よ  り確実に果実を得られる−−。                                                           その狙いが中東で当たった。                     




 UAEで韓国勝利、東芝に実入り

                                                     年の瀬も押し迫った2009年12月27日。アラブ首長国連邦(UAE) アブダビ首長国がアラブ諸国初となる原発建設について、韓国電力公社を中  心とする韓国企業連合への発注を決めた。                                                      2017年以降に稼働する原発4基分の発注額は、運転資金を含め400  億ドル(約3兆6000億円)に達する。この一大プロジェクトを巡り、仏  電力公社とアレバの連合、日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE) の日米連合も名乗りを上げたが、圧倒的な価格競争力を示し、李明博大統領  までセールスに乗り出した韓国勢が競り勝った。                                                   この結果に最もショックを受けたのはフランス勢だ。サルコジ大統領が頻  繁にUAEを訪問。常設基地開設やルーブル美術館の分館建設を提案するな  ど、得意のトップセールスを展開したにもかかわらず、原発輸出の経験がな  い韓国勢に苦杯を喫したからだ。                                                          一方、韓国勢勝利の裏で実利を得たのが東芝とウエスチングハウスだった。 ウエスチングハウスは韓国勢の一角、斗山重工業と提携関係にあり、原子炉  建設に不可欠な基幹技術を供与している。東芝もタービンや発電機の技術を  供与する。東芝グループには200億円前後のライセンス料が舞い込んでく  る見通しだ。                                                                   日本政府も、UAE案件を新興国への原発輸出の橋頭堡にしたい考えだっ  た。その意味で、日立・GE連合が敗れたのは痛かったが、東芝の考えは違  った。「原発の運転実績を積んでおり、規制も整っている国の優先度が高い」 (五十嵐執行役上席常務)という方針で、無理をしてUAEに飛び込むより  も、技術供与や部品供給という実利を取る方を選んだのだ。                                              東芝と斗山は提携していなかったが、UAEの案件を通じて関係を強化す  ることも可能になった。                                                              佐々木社長は「国際的なネットワークを構築することで、世界各国の不確  定要素を克服できる」と強調する。国の政策の枠を飛び越えた臨機応変の体  制を築かなければ、不確実性の高い原発ビジネスを勝ち抜けないとの危機感  があるのだろう。                           



(次ページにつづく)