日本経済新聞(2009年11月2日)

<社 説>

[25%削減 いかに実現 B]

    低炭素の要の原発に正面から向き合え


(その4)


 <本文転載>


 鳩山由紀夫政権が温暖化ガスの削減目標に掲げる「2020年までに19 
90年比で25%削減」を達成するには、発電所の低炭素化がカギを握る。 
発電で石炭や石油への依存を減らし、原子力や自然エネルギーの利用を拡大 
することが不可欠だ。                         
                                   
 原発の安定稼働や増設を促すため、政府は放射性廃棄物の処分などで関与 
を強める必要がある。自然エネルギーを取り込んでも電気料金が大幅に上が 
らないよう、電力自由化による競争促進も避けられない。         




 ◆廃棄物処分は国の責任

                                                             発電所から出る二酸化炭素は国全体の34%(07年度)を占める。家庭  で充電できるプラグインハイブリッド車や電気自動車の登場で、動力源がガ  ソリンエンジンから電気モーターに置き換わる。電気を使う場面が増え、エ  ネルギー供給の43%(06年度)を担う電力の割合は確実に高まる。発電  の低炭素化はなおさら大切になる。                                                         いま発電所の燃料は石炭と石油が計4割弱、原子力が25%、自然エネル  ギー(水力を除く)は1%に満たない。太陽光の発電コストは火力の3〜7  倍、風力も2倍弱と自然エネルギーはまだ割高だ。二酸化炭素の排出量が極  めて少ない原子力発電の比重を高めざるを得ない。                                                  原発について民主党は「安全第一に、国民の理解と信頼を得ながら着実に  取り組む」とマニフェスト(政権公約)で示した。鳩山政権はこれに沿い1  8年度までに運転開始が予定される9基の新増設を後押しすべきだ。そのた  めにも、電力供給量に占める原発の割合などの中長期的な数値目標を示すこ  とが望ましい。                                                                  新潟県中越沖地震の影響で60%まで低下した原発全体の稼働率の回復も  急務だ。仮に90年代末の稼働率84%を維持していれば、日本全体の温暖  化ガス排出は5%分(90年度ベース)減っていたと政府は試算する。                                         被災した原発の運転再開には万全を期すべきだ。一方、操業中の原発の稼  働率を高めるため、欧米のように運転を止めず点検・保守をする技術の導入  なども課題になる。                                                                さらに重要なのが、原子力事業で官民の役割分担を見直すことだ。現在、  使用済み核燃料の再処理や廃炉などで生じる放射能の強い廃棄物の最終処分  場選びは基本的に電力業界の責任と費用負担で進んでいる。                                              再処理には約19兆円の事業費が見込まれる。これに加えて、日本では寿  命を終えた原発は同じ場所で建て替えざるを得ず、安全な解体技術の開発や、 解体費用の積み立てで多額の追加負担が見込まれる。                                                 これらすべてを電力会社が負うのでは投資リスクの大きい原発の新増設が  停滞する恐れがある。政府は一定の責任を果たさざるを得ない。                                            特に最終処分場選びは、名乗りを上げる自治体がなく、見通しが立たない。 政治主導で候補地を選び、地元に受け入れを働きかけるなど、国の積極的な  関与が欠かせない。                                                                一方、自然エネルギーを増やすため民主党は政権公約で「20年までに1  次エネルギーに占める割合を10%程度に高める」という目標を示す。温暖  化ガスの25%削減を本気で目指すなら「10%」に上積みが必要だ。フラ  ンスは20年までに23%、ドイツも18%と野心的な目標を掲げる。                                         太陽光発電の普及に向け、主に家庭を対象に「固定価格買い取り制度」が  1日に始まった。余った電気を電力会社が従来の約2倍の値で買い取り、発  電設備を買った人が10年程度で元手を回収できるようにする。電力会社に  かかる費用は電気料金に転嫁するので国民の負担(標準家庭で当初月30円  程度)も生じる。                           




 ◆電力自由化の再論議を

                                                             民主党はこの制度の拡充を検討している。その際、対象を風力やバイオ燃  料を含む自然エネルギーすべてに広げるとともに、買い取り価格を適切に設  定して発電事業者の新規参入を後押しする制度にすべきだ。                                              併せて電力自由化を改めて論議しなければならない。自然エネルギーを大  量に受け入れると、もともと割高な電気料金が跳ね上がる。それを抑えるに  は競争原理が必要だ。                                                               90年代末の電力規制緩和は大口需要家向けの売電の自由化など限定的だ  った。そこで積み残しになった小口需要家向け売電や、送電網をより多くの  電力事業者が利用しやすくするような規制緩和が論点になる。                                             また自然エネルギーによる発電は天候に影響されて不安定なため、送配電  綱を持つ既存の大手電力会社がその制御や管理を担うのが効率的だ、と電力  業界側は主張する。                                                                しかし新規参入企業が増えれば、競争を通じ自然エネルギーを効率よく取  り込む工夫を重ねる可能性が十分ある。それによって電気料金の上昇を抑制  する効果も期待される。