読売新聞(2009年11月30日)

<地球を読む>===================「地球温暖化」

            控えめな合意目指せ

          石炭、原子力などに集中を

                                      リチャード・ハース

                                      米外交問題評議会会長


(その6)


   <2面の本文転載>


 短期的な悪影響にとどまらないものもある。              
                                   
 温室効果ガスの排出量を削減しないと、いずれはさらなる気候変動につな 
がる。次にはそれが、厳しい貧困や、住民の大規模な移動、国外への移民、 
水不足、病気の蔓延(まんえん)、嵐の激化や増加などをもたらす。その結 
果として、破綻(はたん)国家や国家間紛争を増やすことにもなりかねない。
                                   
 つまり気候変動は、経済的、人道的な懸念であるのと同じくらい、安全保 
障上の問題なのである。                        
                                   
 では、いま何をすべきか。コペンハーゲン会議を準備している人々にとっ 
て最も重要な一歩は、エネルギー効率を高め、温室効果ガスの排出を削減す 
るために、各国の政策を採り入れることである。             
                                   
 やっとのことで米国も動き出し、自動車の燃料効率について、従来よりは 
るかに厳しい新基準を採用した。政策的な規制を行えば、器具や家や機械の 
エネルギー効率を高めることができる。                 
                                   
 こうした改革は、富裕国にも貧困国にも、等しく喜ばれるはずである。エ 
ネルギー支出と石油輸入への依存が減るからである。           
                                   
 必要なのは、一国主義ではなく、各国の協調行動である。地球規模の重要 
課題に関して、一国主義的な解答はないのである。            
                                   
 だが、この問題の真の解決策が、公式の条約を結ぶことにある、などと言 
うつもりはない。合意できれば確かに望ましいが、それが気候変動を早急に 
食い止められるかどうかは別問題だからである。             
                                   
 コペンハーゲンに集う200近い国々の代表が目標とすべきは、大々的な 
包括的合意ではなく、もっと控えめな諸合意にある。           
                                   
 その手はじめの一つは、石炭である。今後数十年にわたって、石炭は世界 
の電力の主要な部分を生み出し続けるだろう。現存する「クリーン石炭技術」
を今以上に共有すると同時に、次世代の「クリーン石炭発電所」の開発を続 
ける必要がある。                           
                                   
 原子力もまた、関心を向けるべき分野である。太陽や風など、再生可能な 
エネルギー源も同様である。ここでもまた、新しい技術の共有とともに、貧 
しい諸国が温室効果ガスの排出削減政策を採用するのに際し、その費用を支 
援する国際的な仕組みが必要とされる。                 
                                   
 これに加えて、森林破壊を止めることが必要不可欠である。森林は膨大な 
量の炭素を吸収してくれる。樹木の伐採と焼却を抑制する諸政策を支援し、 
ブラジルやインドネシアなどの熱帯雨林の保護を手助けし、森林破壊によっ 
て利益を得ている人々に別の生活手段を供給する必要がある。       
                                   
 そのためにコペンハーゲン会議は、豊富な資金を持つ地球規模の基金の創 
設を目標の一つとすべきである。                    
                                   
 今世紀半ばまでに地球全体の炭素排出量を半減させるには、こうした諸措 
置に集中する必要がある。そうすれば、目標達成に大きく近付くだろう。  
                                   
 コペンハーゲン会議では、各国に排出上限を課すような協定は求めようも 
ない。そのための共通認識が存在しないからである。それよりも、もっと地 
道な措置を講じるべきである。                     
                                   
 気候変動に対する戦いで主導権を得たいともくろむ国々は、こうした現実 
主義を拒絶するだろう。だが、すべてを手に入れたがる者は、何も得られな 
い恐れがある。それが、世の常なのである。               




 リチャード・ハース氏 1951年生まれ。米国務省政策企画局長などを 
務め、現在「フォーリン・アフェアーズ」を発行する政策研究機関「外交問 
題評議会」会長。