読売新聞(2009年11月30日)

<地球を読む>========================「地球温暖化」

            控えめな合意目指せ

          石炭、原子力などに集中を

                                                          リチャード・ハース

                                                          米外交問題評議会会長


(その2)


 だが、コペンハーゲン会議そのものは、環境問題に関する国際的な見方が、 早急に、もっと現実的なものにならない限り、「すばらしい」とは程遠いも  のになるだろう。                           

 冒頭にCOP15がコペンハーゲンで始まり、その冒頭から議論が難航してい るマスコミ報道のことに触れたが、そのことをハース氏は会議に1週間前に先だ って発表した論文で予言していたのである。「もっと現実的なもの」という意味 は、我々が主張してきた「捕らぬ狸の皮算用」とか「絵に描いた餅」ではダメだ という意味と同じだと解釈している。

 つまり、削減目標値のみを高らかに宣言しても、如何に削減するかというプロ セスが抜けていたのでは「現実的なもの」あるいは「絵に描いた餅」の域から脱 していないということである。

 世界の気候に、何らかの影響を及ぼすような包括的な文書が締結できるか  といえば、国際的な合意はないに等しい。これは、決して驚くべきことでは  ない。各国政府は、環境面で長期的な恩恵を受けるために、短期的、中期的  な経済成長を犠牲にするつもりはないからである。            

 我々がコメントを差し挟む必要性がないほど、まったく平易な表現で、最も重 要な真実を表現してくれているといえよう。つまり、地球温暖化を阻止すること によって受けるであろう恩恵は十分承知しているが、だからといって経済成長を 犠牲にまでするつもりは、誰しもないということである。

 つまり、温室効果ガス排出量の削減と経済成長が両立するような方法を盛り込 んだ「包括的な文書」でないと締結合意はないだろうということである。

 このことを鳩山首相が十分理解してコペンハーゲンに乗り込み、「2020年 までに1990年比で25%削減しようよ」と演説しても、そこに集まった各国 首脳をはじめ、COP15に参加した人たちは「日本がやれば・・・」という考 えが心の憶測で密かに叫ぶだけだろう。

 世界の発展途上国の多くが不況のさなかにある現在、これは特に言えるこ  とである。米国も事情は同じである。経済回復を遅らせる危険があり、しか  も高いコストと増税につながるのなら、温室効果ガスの排出に上限を設けな  いだろう。                              

 ここまで明確にこの米外交問題評議会会長が説明してくれているのだから、よ もや日本の環境省や政府高官は無視することはないだろうが、地球温暖化対策イ コール経済への悪影響しか方法がないと考えていては、発展途上国はもとより、 如何なる国も話に乗らないのは、明々白々であると断言できるのである。

 どうも日本人は、大きな問題の解決に立ち向かう時、ルンルン気分で進んでは ダメで、悲壮感を周囲にも漂わせ、息せき切って突っ走らなければならないとで も考えているのであろうか。

 例えば、インドの4億人には、いまだに電気がない。もっと大量に石炭を  使えば、国民の3分の1に電力を行き渡らせることができると分かれば、イ  ンドがそれを控えることなど、全く期待できない。            

 地球温暖化を阻止するため、インドの貧しい人々に向かって「電気のない暮ら しを続けてくれ」といえますか? もちろん多額の援助金を出してもいえないだ ろう。石炭火力に替わる発電システムの建設を薦めるべきなのである。

 インドはすでに原子力発電所の建設に向かっている。アメリカは、インドの核 兵器実験の前に遡って、原子力平和利用における協力関係を復活させている。

 国民の多くが相対的に低い生活水準にある中国も、排出の上限設定には、  どんな場合でも賛成しないだろう。                   

 最近の中国の経済発展は素晴らしい。今や世界の羨望の的になっている。それ をスローダウンして温室効果ガスの排出量を大幅に削減しろといえるだろうか? 経済発展と共に自動車の普及率も鰻登りだという。日本の自動車産業も中国への 売り込みに拍車がかかっていることだろう。

 しかもそれはハイブリッドや電気自動車が主流ではなく、恐らくほとんどはガ ソリン車の売り込みだろう。その日本の車産業界の輸出によって日本経済を支え てくれているのも事実だろうから、中国にCO2排出量を削減するため、日本の メーカーに中国へのガソリン車の輸出を禁止しますか? そんなことはできない だろう。

(次ページにつづく)