朝日新聞(2009年9月24日)
<私の視点>===========「原子力行政」
今こそ推進と規制の分離を
住田 健二(すみた けんじ)
元原子力安全委員会委員長代理
この9月30日は茨城県東海村で核燃料加工会社ジェー・シー・オー(J
CO)の臨界事故が発生してから10周年にあたる。社員2人が亡くなった
国内最悪の原子力事故の記憶は、いまも生々しい。
事放当日、私は政府の原子力安全委員会の委員長代理として、現場で臨界
を止める作業にあたった。退職後は政府の制約を受けない日本原子力学会を
基盤に、事故の事実と教訓をできるだけ正確に残そうと、仲間たちと邦文、
英文の調査報告書をまとめる努力を重ねてきた。
いま私は原子力行政を担う政府の推進機関と規制機関の分離について一度
はっきり発言しておかなければ、後悔の念を残してあの世に行くことになる
と思いつめている。
推進と規制の分離は原子力行政の基本で、国際的な常識だ。原子力安全条
約(1996年発効、54カ国締結)に名を連ねる主要国のほとんどが実現
している。しかし、日本ではいまだに実現できていない。
原子力発電所の安全審査ひとつをとっても、日本で審査を担う原子力安全・
保安院は、推進機関である経済産業省の傘下にある。そして保安院の審査の
結果を首相の諮問機関である原子力安全委員会が二重にチェックするという
体制が続いている。
原子力行政に携わる人々は推進と規制とを両手に抱えながら頑張ってきた
が、その結果が事故やトラブルの多発だった。正直に言って、いまの体制の
転換なしには、原子力利用への国民の支持を確保することは、もう困難にな
ってきている。
たとえば原子力施設が立地する多くの地方自治体は、それぞれが安全評価
のために首長の諮問委員会を独自に置いている。政府の規制体制が信頼でき
ないと考えているからにほかならない。だが、こうした三重規制のシステム
でも、いまだに肝心の国民からの信頼は得られていない。
推進と規制の分離は数年前から民主党の政策検討委員会でも取り上げられ、
国会への法案提出もなされてきた。地方自治体の連合組織や日本弁護士連合
会からも同様の要請が出ている。しかし、原子力の必要性をある程度理解し、
より安全な利用を願う現実的な立場からの希望を、これまで政府は無視し続
けてきた。
先の総選挙の結果、日本でも政権交代が実現した。推進と規制の分離につ
いて現実的な対応を行いうる絶好の機会である。
推進と規制の分離の実現には、現実には相当の準備期間が必要だ。原子力
安全委員会を国家行政組織法3条にもとづく行政委員会にして独立権限を強
化することを願ってやまないが、膨大な規制の実務にあたる保安院などの行
政組織を再編し、かつ実務の基礎を支える研究実験組織の確保まで考えない
と、原子力安全委員会は結局、単なる「シンクタンク」にとどまることにな
るだろう。
推進と規制の分離を形だけのものにしないため、あわてず、決めつけず、
現実を見つめて、じっくりとその第一歩を踏み出してほしい。
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