朝日新聞(2009年9月24日)<私の視点>

朝日新聞(2009年10月4日)<社 説>

日経新聞(2009年10月4日)<社 説>

原子力行政への提言

     「今こそ推進と規制の分離を」住田建二

     「監視役は独立でなければ」朝日社説

 「臨界事故の教訓は生かされているか」日経社説


(その3)


 さて次に、産業界とは密なる基本姿勢で報道している日経の社説から検証して みよう。10月4日付け日経の社説である。

 「実験用原子炉の特殊な燃料を作る工程での事故で、原子力発電の安全の根 幹が揺らいだわけではない。JCOが臨界(核分裂の連鎖)の危険について 基本的な知識を欠き、安全を第一と考える文化を組織全体で共有できていな いことが問われた」                          

 9月30日といえば、我が国の原子力開発史上最悪の事故、ウラン燃料加工工 場が原子炉以外の場所で核分裂連鎖反応を起こすという、いわゆるJCO臨界事 故を起こした日である。今年(2009年)は、あれから丁度10年が経過した ということになる。

 まさしくJCOという会社組織全体が核分裂がおこるメカニズムという基本中 の基本知識さえ欠いていた事故と我々は理解している。では何故そのような基本 知識もないような会社に燃料加工という重要な仕事をさせていたのか、という疑 問に応えねばなるまい。

 原発の燃料であるウランは色々な工程で形を変え、最終的には2酸化ウランと いう粉末状で最終的な燃料加工工場に送られてくるのだが、その前の6フッ化ウ ランというガス状から2酸化ウランへ転換する工程を引き受けていたのがJCO である。

 JCOの転換工場に送られてくる6フッ化ウランは、すでに濃縮された状態で あるから、濃縮度によって一度に扱える量には厳しい限度があり、その限度を超 えると核分裂も起こりうるのである。その危険量は、核物理の基礎を勉強した者 なら簡単に計算できるのだが、その当時、JCOの転換工場には核物理の知識の ある技術者はいなかったということになる。

 この事故が起こる少し前まで社長を務めておられたのは、通産官僚からJCO の親会社である住友金属鉱山の役員に天下って来られた方であった。この方がJ COの社長に就任されると、JCOの経営状態を立て直すべく高給技術者の配置 転換をはかり、JCOの人件費の縮減をされたのである。恐らく転換工場の作業 を見て、単純作業に高給技術者は不要と判断されたのであろう。

 この当時の社長は原子力が専門ではなく、鉱山が専門だったと聞いている。そ してこの事故が起こる少し前、この社長はJCOも住友金属鉱山も去られていた ので、事故の直接の責任は問われていないが、事故直後、一部のマスコミには報 じられていたし、我々もJCOの関係者から直接その事実を聞いている。

 この話をここで持ち出したのは、改めてこの当事者の責任を問おうというので は決してない。ただ、高級官僚といえども、現場や専門色の強い分野で経験の浅 い技術者では、厳しい安全審査や検査はできないということを是非指摘しておき たいからである。

 「臨界事故後、国はすべての原子力施設で保安検査を強化し、内部告発を奨 励する制度も導入した。だが、今年4月に中部電力浜岡原発や中国電力島根 原発で日立製作所の下請け会社によるデータ改ざんが発覚するなど、体質改 善や透明性の確保も道半ばだ」                     

 ここで指摘されているように、原発をはじめ原子力関連施設の現場では、デー タの改ざん事件が相も変わらず多く、それが発覚すると、当然ながらマスコミに 叩かれ、原子力界全体の信頼も失墜するという現象が繰り返されてきたのである。 その原因は何か、言い訳ではなく、その原因分析をしておかなければなるまい。

 原子力発電所などの関連施設で働く技術者達は、安全規制当局へ提出しなけれ ばならないデータを何故改ざんするのか? 改ざんすることで自分たちが働く施 設が危険に晒される恐れがあるとはよもや思っていまい。むしろ改ざんが危険性 に繋がることはないという自信があるからだろう。では何故、その改ざんが発覚 すれば、せっかく積み上げてきた信頼が崩れるかも知れないとも分かっていなが ら、改ざんするのか、である。

 「正しいデータをそのまま提出すれば、今までの安全といってきた主張が崩れ るからだろう」といった憶測がマスコミに流れることもある。この憶測も正しく はない。では何故か?

 ちょっとしたデータの食い違いを規制当局から派遣された検査官にそのまま提 出すると、色々、長々と質問され、それだけで現場の仕事に支障をきたす。自分 たちの仕事場である施設を安全に守っているのは自分たちで、自分たちより技術 レベルの低い検査官にとやかく言われたくない、といった感情が渦巻いてデータ の改ざんという行為をしてしまうのである。規制当局は、現場に派遣される検査 官を通して、長年現場で培ったメーカーや電力会社の技術者達にも信頼されてい ないからだと示唆したいのである。

 データの改ざんは明らかに違法である。違法であっても、たとえその罰則を厳 しくしても根本原因を完全に是正することはできないだろう。

 根本的に是正するには、規制当局自体の信頼を高める他ない。また、規制当局 の審査官や検査官の能力をせめて現場の技術者並に高めなければならない。それ にはメーカーや電力会社で長年経験を積み重ね、定年退職者の中から、優秀な人 材を規制当局に迎えるといった方法を講じなければならないだろう。官僚から民 間企業へ再就職することを「天下り」というなら、規制当局の優秀な人材結集は 「天上り」というのかも知れない。

 「原子力行政の推進と規制を明確に分離し、アクセルとブレーキの踏み分け を健全に機能させることは、事故の芽を摘み取り、地元自治体や住民から信 頼されるために必要だ」                        

 「原子力行政の推進と規制を明確に分離」することは、「地元自治体や住民」 ばかりでなく、原子力関連施設で働く技術者達からも信頼されるために必要不可 欠である。ただそれだけでは十分ではない。独立した安全規制当局には、官学民 から優秀な人材を結集しなければならないのである。

               「G研」代表

(次ページにつづく)