
(その1)
20世紀最大の技術システムといっても決して過言ではない原子力発電を、安
価で安定した電力の供給システムとして、また、地球温暖化を阻止する対応策の
エースとして、これからも積極かつ健全に推進していかなければならない。自由
主義、民主主義国家において国民から合意を得ながら原子力発電を進めるために
は、原子力技術が安全に継続されなければならないことはいうまでもないが、そ
れ以上に原子力開発に携わっている組織や人間が国民から絶大なる信頼を勝ち取
らなければならない。
運転実績のある原発は、全世界で500基以上、日本でも50基以上もある。 しかし、それほど実績がありながら、人々から絶大なる信頼を勝ち得ているとは、 残念ながらいえていないのである。
我が国の原子力関係者はかつて「安全運転を続けていれば、いつかは信頼され る日が来るだろう」といっていた。我々もそう思って原発の建設計画から建設工 事、運転、保守点検業務などに長年携わってきた。想定外の故障もあったが、原 子力の発電技術そのものは、安全システムから運転維持システムに至る技術その ものはすでに確立されたものといえると思っている。
問題はその技術を活用する組織や携わる人間にいささか問題があったと認めざ るを得ない。見落とし、錯誤、データの改ざん、隠蔽等々、今日までに明らかに された事象のほとんどは人為的なもので、技術力の不足というより、人間性をも 疑いたくなるような行為であった。
こういった問題を是正するためには、多方面からの改革が必要であろうが、ま ずは総元締めである原子力安全委員会と原子力安全・保安院の、既存行政組織か らの完全独立と能力の格段の改善、蓄積であろう。
国の規制体勢は国民から信頼されたものでなければならないことはいうまでも ないが、その対象となる国民は、原発立地の地元住民に止まらず、発電所の従業 員からも信頼されなければならない。
ここまでの我々の主張は、今までもあらゆる機会を捉えて発してきた。このた び、9月24日付け朝日新聞の「私の視点」欄に投稿された住田建二・元原子力 安全委員会委員長代理のご意見、それに10月4日付け朝日の社説および同日付 日経の社説の主張が我々の考えと一致した。よって3つの主張を同時に取り上げ、 詳しく検証しながら、関係者の改革気運が高まることに期待したい。
まず最初に、住田元原子力委員の主張から見てみよう。
「推進と規制の分離は原子力行政の基本で、国際的な常識だ。原子力安全条 約(1996年発効、54カ国締結)に名を連ねる主要国のほとんどが実現 している。しかし、日本ではいまだに実現できていない」
原子力推進と安全規制は分離独立させるのは「原子力行政の基本」で「国際的 な常識」とまで先生は指摘されているのだ。
原子力関連施設の審査や検査を司る国の担当部署は、原子力安全・保安院だが、 これは原子力推進業務を管轄している経済産業省の傘下にあるから、推進と規制 が同居した行政になっている。これでは国民の信頼を得ることは難しいだろう。
「たとえば原子力施設が立地する多くの地方自治体は、それぞれが安全評価 のために首長の諮問委員会を独自に置いている。政府の規制体制が信頼でき ないと考えているからにほかならない。だが、こうした三重規制のシステム でも、いまだに肝心の国民からの信頼は得られていない」
我が国の原子力規制体勢は、原子力施設が立地する地方自治体からも信頼され ていない。そのことは、地方自治体が独自の安全評価のための諮問委員会をおい ているからである。つまり、国の規制当局および原子力安全委員会の両者から安 全というお墨付きをもらったにもかかわらず、当該の地方自治体の首長が任命し た諮問委員会に、それぞれの案件に対する安全評価を委託しているのである。
これこそ、国の規制当局に対し地方自治体はまったく信頼を寄せていない証拠 といえよう。