朝日新聞(2009年9月21日)

<The Asahi Shimbun GLOBE>

[World Economy=先読み世界経済]

  「理系人間」よ、発言せよ

  環境エネルギー革命に必要な大局観

                          藤原 洋

                         (ふじわら ひろし=インターネット総合研究所長)


(その3)


 <本文転載>


 日本では人を「理系」、「文系」にわけることがよくある。       
                                   
 感覚的な議論として、主に理系の人たちの間で「理系は文系より冷遇され 
ている」という見方がある。文系から見れば「理系は人づきあいが苦手。実 
験室にこもっても、結果が出せなければ、待遇が低くても仕方がない」とい 
う見方があるだろう。                         
                                   
 現実はどうだろうか。先日発足した鳩山内閣は、理系が多い。鳩山由紀夫 
首相を始め、閣僚では菅直人、平野博文の両氏も理工系学部を卒業している。
ただ、これは日本の政治家ではまれな例だ。               
                                   
 人材活用を議論する自民党の委員会に「日本の企業では、先進欧州諸国と 
比べて、理系出身の社長の比率が低い」(講談社刊『理系白書』)とするデ 
ータが示されたことがあった。                     
                                   
 英国、ドイツ、フランスでは半数以上が理工学系の出身なのに対して、日 
本は約3割にとどまるという。生涯賃金でも、文系が理系を大きく上回った 
という調査もある。                          
                                   
 企業に限らず、中央官庁でも、上級公務員試験の合格者の55%が技官  
(理系)なのに、局長では13%、トップの次官では3%しか理系の人材が 
いないという。                            
                                   
 なぜ、理系の人材が、組織や社会の大きな方針を決めたり、運営を担った 
りする幹部層に少ないのか。                      
                                   
 1871年の工部省の報告書には「事務官僚に比べて技術官僚の地位を低 
くすべきだ」という記述がある。明治政府以来の伝統に、今も縛られている 
のも理由の一つだろう。                        
                                   
 また、現在の高等教育でも、経営は文系、物作りは理系といった分担を前 
提に、理系の人材を狭い役割に押し込めていないだろうか。        
                                   
 欧米の大学院では、Management of Technology 
(MOT=技術経営)というコースがある。スタンフォード大とマサチュー 
セッツ工科大のビジネススクールが始めたのが最初とされる。       
                                   
 自社の技術が社会にどれだけ意味があるのか。それを知る人間が広い視野 
で戦略的に企業経営をする必要性が広く認識されている。         
                                   
 私は理系人間を企業や官庁でもっと優遇しろ、と言っているのではない。 
むしろ、理系人間の多くが、企業などの組織マネジメントやリーダーシップ 
に対して関心が低く、発言も少かったことを危倶(きぐ)している。    




 ◆理系も大局観を身につけよ

                                                       理系人間は専門領域に好奇心を集中させて、のめり込む人が多い。研究者  には必要な資質だが、バランスに欠ける面もある。社会観、歴史観、大局観  を身につけることが必要だ。                                                            私自身はこれまで、様々な企業の経営に携わってきたが、技術と社会の両  方に興味があったことが大いに役に立った。                                                     素地ができたのは、中学生のときだ。アインシュタインの「特殊相対論」  とマルクスの「資本論」にのめりこんだ。                                                      前者を読んだのは、1969年のアポロ計画がきっかけで、どうすれば人  間が月よりもさらに遠くの宇宙へ行けるか、知りたくなったからだ。中学生  なりに、ロケットが飛ぶ理由やその限界を理解したつもりだ。                                             後者は、全共闘運動で東大入試が中止になったのがきっかけだ。マルクス  主義とは何だろうかと思った。                                                           資本論には、封建社会から資本主義になり、階級闘争が起きて、社会主義、 共産主義へと進む道が示されていた。ところが、ソ連は、共産党という新た  な封建領主が現れただけ。結局、学生が資本論をよく理解せず運動している  と感じた。                                                                    自然や社会の根源的な問題に接して大局観を備えた理系人間が、今ほど、  経営や社会に積極的にかかわるときはないのではないか。                                               最近の出来事を見てみよう。金融資本主義の肥大化と崩壊である。    



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