読売新聞(2009年8月22日)

<加速・原発ビジネス・下>

          「アレルギー」越え 共存探る


(その2)


 <本文転載>


 太平洋に面する福島県大熊町。ヒラメ栽培漁業振興施設にある直径8メー 
トルの池には数百匹のヒラメの稚魚が黒いじゅうたんのようにひしめき合っ 
ていた。冬場でも水温は約15度。海水より7〜8度高く設定することで成 
長を促す。「常磐モノ」として有名な福島沖のヒラメは20年以上続く施設 
のおかげで漁獲高が安定、全国に知られるようになった。         
                                   
 施設を支えるのが隣接する東京電力・福島第一原子力発電所だ。原発はタ 
ービンを回す蒸気を冷却するため大量の海水を使う。この熱を奪って温まっ 
た海水がパイプを通して施設の他に流れ込む。福島県栽培漁業協会の遠藤修 
弘参事は「燃料代が高騰した時も温水のコストが抑えられ、助かる」と話す。
                                   
 国内の原発事業は被爆国ということもあり、原発アレルギーと常に向かい 
合ってきた。原発と地元との共存を模索し続ける電力会社が出した回答の一 
つがこの漁業施設だ。                         
                                   
 関西電力・美浜発電所を抱える福井県美浜町は、小中学校の環境教育で町 
が作成した独自の副読本を活用した授業を行っている。小学4年生で原発を 
取り上げ、中学1年生を対象に原発見学を実施する。「プラス面とマイナス 
面を含めて原発を理解してもらうこと」(町教育委員会)が狙いだ。    
                                   
 国内で稼働する原発は53基。発電量の約3割を担う世界3位の原発大国 
だ。原子力安全システム研究所の調査によると、原発利用に否定的な意見は 
1997年の34%から2007年には16%へ低下し、原発の役割を容認 
する考えは定着しつつある。だが、原発事故に対する不安を訴える声はこの 
10年間、90%前後のままだ。                    
                                   
 これ以上の化石燃料依存は望めず、天候に左右されやすい自然エネルギー 
ヘの早期転換が難しい現状では「原発を基幹エネルギーにせざるを得ない」 
(柏木孝夫・東京工大教授)との見方が広がる。原発メーカーも「グローバ 
ル展開しても国内市場が基軸」(三菱重工業の沢明・原子力事業本部長)と 
国内事業の重要性を強調する。                     
                                   
 ただ、今後10年で9基の建設計画を持ちながら、世界的な原発回帰の流 
れに比べて国内の原発市場は停滞気味だ。臨界事故隠しや原発データ改ざん 
問題など原発不信を助長しかねない不祥事も相次ぐ。国民の信頼を得られる 
かどうか。それが国内の原発ビジネスを推進するうえで最も重要な課題とな 
る。              (この連載は、瀬川大介が担当しました)