読売新聞(2009年8月22日)

<加速・原発ビジネス・下>

      「アレルギー」越え 共存探る


(その1)


 「原発がそんなに安全なら電力の大消費地である大都会に建てたらどうか」と か「危険だから過疎地に建てるんだろう」と、反対派から議論をふっかけられて きた。それに対して我々は次のように反論してきた。

 原発建設の第一の目的は、安価に大量に、そしてもちろん安全に発電すること である。しかし、それだけに徹したのではあまりにも余裕がなさ過ぎる。もう一 つの目的こそ、原発特有といえる「地域開発」である。つまり、原発はエネルギ ー開発と地域開発との共存共栄がはかれてこそその存在意義があるのだ、と。

 原発が如何に安全哲学に基づいて設計された工学システムであるかについての 説明は、今回は省略するが、我々原子力産業界に生きてきた者としては、東京の ど真ん中、たとえば皇居に原発を建設しても決して危険なものではないと思って いる。原発建設の第一の目的、大容量の発電は十分可能と考える。

 しかし、原発建設第二の目的、地域開発にはたして貢献するだろうか。大都会 はすでに地域開発は完成の域に達するほど進んでいる。皇居に原発を建設しても、 せいぜいお堀の水をきれいにするくらいだろう。

 日本国内で稼働する原発は、何やかや言われてもいまや53基あって、我が国 の総発電容量の3割強を占めている。この発電所がある地元へ行くと、見違える ように発展していることに気付くだろう。

 読売新聞連載「加速・原発ビジネス」の第2弾で、原発の地元で進められてい る地域開発との共存共栄策が紹介されている。福島県大熊町のヒラメ栽培漁業振 興施設である。かつては原発建設のために地元住民の頬を札束で叩いて屈服させ ていると揶揄された時もあった。

 たしかにかつては電源三法交付金などで、目立ってしまうハコものばかりが建 っていた。ところが最近では、養殖漁場のように原発で余った熱を供給して貢献 している。余った熱は地元のハウス栽培にも供給できるのでは、と計画が持ち上 がっているという。まさしくエネルギー開発と地域開発との共存共栄策が実りつ つあるといえよう。

 「ただ、今後10年で9基の建設計画を持ちながら、世界的な原発回帰の流 れに比べて国内の原発市場は停滞気味だ。臨界事故隠しや原発データ改ざん 問題など原発不信を助長しかねない不祥事も相次ぐ。国民の信頼を得られる かどうか。それが国内の原発ビジネスを推進するうえで最も重要な課題とな る」                                 

 世界は今や原発を見直し、建設ラッシュが近づきつつある。しかし、一昔前ま ではTMI原発事故やチェルノブイリ原発事故のため新規原発の建設がストップ してしまった欧米であったが、その間も日本では曲がりなりにも続けてこられた のである。そして、いまや世界に存在する主要な原発メーカー五社のうち三社ま で日本の企業が大きく育ってきたのである。

 ところが今になって日本国内の原発建設は足踏み状態が続いている。それは何 が原因か、少々分析する必要があるだろう。

 読売は「臨界事故隠しや原発データ改ざん問題など原発不信を助長しかねない 不祥事も相次」いだことが国民の信頼を裏切ってしまった、と分析し、それが原 発建設を足踏みさせているといいたいのであろう。

 それはそうなのだが、我々は、我々の同僚や後輩達が何故「臨界事故隠しや原 発データ改ざん問題」などの不祥事を起こしてしまったのか、という所まで掘り 下げて分析しなければならないと考える。

 原発周辺で起こった不祥事のほとんどは、関係者が故意に起こした事象であっ て、原子力発電システムそのものの不具合から生じたものでは決してない。

 「臨界事故隠しや原発データ改ざん問題」などの不祥事を起こせば、地元住民 の方々はもとより、日本全体の国民から不信感を持たれるのは、現場の関係者と て十分承知しているはずだ。なのに何故このような事実を隠したり、データを改 ざんしたりしたのか、という点だ。

 その答は、電力業界や原子力産業界の上層部も分かっているはずだが、誰も明 かそうとはしていない。そろそろ我々が明かして、関係者の改善を要請したい。

 それは、国の行政機関から現場に派遣されてくる検査官の人間性から技術の熟 練度に関わる問題だ。原発のメンテナンスを担当する電力やメーカーの技術者と 行政の検査官との熟練度には相当の開きがあるにもかかわらず、立場はまったく 逆ということから生じる不祥事なのである。

 つまり、教師と生徒の知識の量が逆転していたら、生徒はその教師の授業や試 験を真面目に受けるだろうか?それに類似する状況が原発の安全検査に見られる ところから上記のような不祥事が生じていると言わざるを得ない。

 消費者庁がようやく独立した形でスタートしたように、原子力安全規制当局も 既存の行政から完全に独立させ、官民上げて広く優秀な人材を結集して、国民の 信頼を勝ち取れる体勢づくりをまずしなければならないだろう。

 もう一つ、我が国で原発建設がなかなか進まない理由がある。原子力を国のエ ネルギー戦略の中心に据えているにもかかわらず、政治家が原子力を擁護する発 言をなかなかしないところにある。原子力推進の演説をしても、選挙の票を減ら すことがあっても増やすことがないとでも思っているのであろう。

 フランスのサルコジ大統領が同国メーカーの原発プラントの売り込みをせっせ としていることと比べて、日本の政治家の原子力発言の少なさは寂しい限りであ る。

 民主党新政権は、地球温暖化対策として温室効果ガスの排出量を2020年ま でに1990年比25%まで減らす目標を掲げているようである。この数字は、 原発の飛躍的な建設ラッシュでもない限り、各家庭から何十万円もの犠牲を払っ としても不可能であると断言できる。このことを鳩山新総理も肝に銘じて国際社 会に発言してもらいたい。

 我が国の原子力開発がここに来て足踏み状態なのは、世界で唯一の被爆国から 来るところの核アレルギーからでは最早なさそうである。原子力安全規制当局の 信頼性のなさと政治家の自信ある発言不足がその理由である、と我々は考えてい る。

             「G研」代表

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