朝日新聞(2009年5月22日)

<科学>

  [温暖化対策 夏めどに経産省]

       原発活用の道筋探る


(その2)


 <本文転載>


 経済産業省総合資源エネルギー調査会の原子力部会が、原子力発電の利用 
推進強化策を夏までにまとめる。原発は発電時に二酸化炭素(CO2)がほ 
とんど出ないことから、温暖化対策の中核として発電の割合を高めようとい 
う狙いだ。しかし、稼働率の向上や新設は容易ではない。具体的な道筋を描 
けるのか。                      (佐々木英輔) 





 ◆稼働率向上が課題に

                                                              「設備利用率(稼働率)が3年連続で60%台に低迷し、大変重く受け止  めている」                                                                    4月22日の原子力部会。森本浩志・関西電力副社長が業界を代表して釈  明した。                                                                     原発の稼働率は90年代後半は8割台を維持し、98年度には最高の84. 2%に達した。しかし、4月に発表された08年度の稼働率は60.0%。  03年度の59.7%に次ぐ低さだった=グラフ。                                                  相次ぐ不祥事に地震が追い打ちをかけた。東京電力は02年に原子炉施設  の損傷隠しなどが発覚し、全17基が停止。影響は05年まで続いた。07  年7月の新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発の全7基が再び停止。この19日  に7号機=写真=がようやく発電を再開したが、ほかはまだ点検中だ。                                         05年に国が定めた原子力政策大綱は、30年以降の発電量の3〜4割以  上を原発が担うとした。しかし、稼働率の低かった07、08年度の原発の  割合は25%程度に落ち込んだ。                                                          原発は安定して大出力が得られ、燃料価格の変動の影響も小さい。電力会  社は長年、稼働率を高めた効率的な運用を目指してきた。その稼働率が落ち  込むなか、温暖化対策という追い風が吹いてきた。                                                  原発の稼働率1%分を火力発電で補うとCO2排出量は約300万トン増  えるという。07年度の国内排出量は13億7400万トンで、京都議定書  の基準年(主に90年度)の9.0%増になった。環境省は、98年度並み  の稼働率なら5%分は下げられたと試算する。                                                    昨年閣議決定した「低炭素社会づくり行動計画」は太陽光、風力、水力も  含めた「ゼロ・エミッション(排出)電源」を、20年をめどに50%以上  にし、原発の比率を「相当程度」増やす目標を掲げる。                                                国内の原発は現在53基。経産省資源エネルギー庁の試算では、今後10  年以内に新設を計画中の9基で運転が始まれば、稼働率80%で「50%」  の目標をなんとか達成できる。だが、稼働率が70%なら18基の新設が必  要になるという。政府が選択肢を示して検討中の排出量削減の「中期目標」  (20年まで)も、多くは新設9基、稼働率81%が前提だ。                                             原発はすぐに新設できない。エネ庁は「稼働率向上」を強化策の柱にあげ  た。部会の委員からも「即効性があるのは既設炉の有効活用。稼働率を最大  限高める必要がある」といった意見が出た。               





 ◆検査の短縮や出力アップも

                                                           稼働率は高まるのか。国内ではここ数年、長期使用を見越した機器の補修  や交換、耐震補強工事などで運転停止が長引く傾向にあり、以前の水準に戻  すのも容易ではない。                                                               原子力部会では、原発の利用効率をさらに上げるための 定期検査の間隔  を長くするのも、その一つだ。一律13カ月ごとに運転を止めて検査してい  たのを、原発の状態に応じて検査間隔を延ばせる新制度が今年始まった。間  隔を18カ月にできれば、計算上は稼働率9割台に手が届く。                                             運転中の点検を増やすなどして、通常2〜3カ月かかる検査期間を短くで  きれば、稼働率をさらに上げられる。                                                        実際、米国では90年代以降、こうした取り組みが進み、今世紀に入って  稼働率は90%前後にまで上がった。                                                        また、電気事業連合会は、米国に比べてトラブルの発生から運転再開まで  の期間が長いとして、検査の柔軟な運用の必要性を訴える。                                              タービン改造などによる出力の向上も、論点だ。米国ではすでに新設5基  分に相当する出力アップを実現した。国内では日本原子力発電が、茨城県の  東海第2原発で出力5%アップを計画中だ。                                                     ただ、こうした新たな取り組みは、安全性をめぐる十分な科学的データや  技術的な検証、制度的な対応があって初めて実現できる。何より、地元住民  や自治体の理解が得られなければ、実現は難しい。                                                  エネ庁は25日の原子力部会で地元の理解を得る取り組みなども検討し、  6月までに推進強化策をまとめる。中長期的視点から、需要の少ない時期の  低出力運転、新・増設の円滑化策なども盛り込む。                                                  原発は、計画から運転開始まで20年程度かかる。国内では30年ごろか  ら多くの原発が建て替え時期を迎える。                                                       エネ庁は「一気に改善できる方法はない。安全性の向上と同時に達成でき  る取り組みを、地道に進めていく」(原子力政策課)という。