読売新聞(2009年1月26日)


<社説>−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−「温暖化対策」

        経済危機克服の手段となるか


(その3)


 <本文転載>


 経済政策と地球温暖化対策は相容れない。温室効果ガスの排出規制は、経 
済活動を停滞させる。地球温暖化問題を巡っては、長らくこうした指摘がさ 
れてきた。                              
                                   
 だが、米国のオバマ新大統領が掲げる「グリーン・ニューディール」は、 
温暖化対策に新たな視点を示したといえよう。              
                                   
 環境・エネルギー分野への投資で内需を拡大し、数百万人規模の雇用を創 
出しようという政策である。経済危機を克服する手段の柱に、温暖化対策を 
据えた。                               
                                   
 この政策の成否が、今後の温暖化対策の行方を左右することは間違いある 
まい。                                
                                   
 今年は気候変動問題にとって極めて重要な1年である。         
                                   
 二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出削減ルールを定めた京都議 
定書の対象期間は、2012年で終了する。それに続く13年以降の「ポス 
ト京都議定書」は今年末までにまとめることが決まっている。       
                                   
 交渉期限まで1年を切った今、ポスト京都議定書の姿は輪郭さえ見えてい 
ない。世界全体の排出削減目標や、それを達成するために必要な国ごとの削 
減量−−。これら重要事項の協議は、すべてこれからだ。         
                                   
 交渉に行き詰まり感が出ている今、オバマ政権が国際交渉に登場すること 
で議論が加速するのではないかとの期待が高まるのは、当然のことといえる。
                                   
 オバマ大統領は「2050年までに90年比で80%削減」という長期目 
標を掲げている。これは日本の目標である「50年までに現状から60〜8 
0%減」より厳しい。                         
                                   
 「2020年までに90年レベルまで削減」という中期目標も打ち出して 
いる。日本はまだ、中期目標を決定していない。             
                                   
 オバマ政権の登場で、厳しい目標設定を主張する欧州連合(EU)と、そ 
れに反対する米国という従来の構図は、少なからず変わるだろう。日本はど 
う対応するのか、戦略作りが急務である。                
                                   

 ◆「京都」を教訓にせよ

                                                             交渉に当たっては、京都議定書を教訓にすることが重要である。米国が離  脱し、中国は削減義務を負っていない。2大排出国が枠外にある京都議定書  にどれほどの実効性があるだろうか。                                                        削減の基準年が90年となっている点も、公平性を欠く。90年当時、日  本は、他の先進諸国に比べ、最高水準の省エネルギーを実現していた。そこ  からさらに排出量を減らすのは容易ではない。                                                    実際、議定書が日本に課している「90年比でマイナス6%」の削減目標  を達成するのは、危うい状況になっている。                                                     ポスト京都議定書は、すべての主要排出国が参加する公平・公正なルール  にする。日本は、この方針を堅持して今後の交渉に臨まなければならない。                                       交渉の最大の懸案は、削減義務を課せられるのを拒否している多くの新興  国・途上国をどう引き込むかにある。                                                        日本など先進国が省エネなどの技術協力を進め、その見返りとして、新興  国・途上国は応分の責任を果たさねばならない。                                                   特に、米国を抜き、世界一のCO2排出国になったとされる中国が削減義  務を負わなければならないことは、言うまでもない。先進国が一体となって  働きかけていくことが肝要である。                                                         オバマ大統領は、EUがすでに実施している排出量取引制度の導入も表明  している。                                                                    日本も試行を開始したが、制度が排出削減に効果的かどうかは未知数だ。  経済危機の中、投機筋の新たな対象としてマネーゲームになるとの懸念もあ  る。                                                                       欧米の動きを無視することはできない。だが、拙速な導入は避けねばなら  ない。日本は難しい決断を迫られるだろう。                                                     ポスト京都議定書の議論は、各国の科学者の集まりである国連の気候変動  に関する政府間パネル(IPCC)の分析データを基に進められている。                                        その一方で、気候変動のメカニズムについては、科学的に未解明な面が多  いのも事実だ。人為的な温室効果ガスの排出量増加が主因であることを疑問  視する専門家も少なくない。                                                          

 ◆社会構造の変革を

                                                               だが、仮にそうだとしても、将来、構築せねばならない「脱化石燃料社会」 に向けた準備は必要だ。ポスト京都議定書は脱石油、脱石炭への一里塚とも  いえよう。                                                                    CO2をほとんど排出しない原子力発電の重要性は増していくだろう。太  陽光発電の普及など、自然エネルギーの活用を促進していくことも欠かせま  い。                                                                       政府は3月中に日本版「グリーン・ニューディール」を策定する方針だ。  これを機に、日本の技術力を生かし、社会構造を一歩一歩変えていく必要が  ある。