<社説>============「原油急騰」
     投機の動きけん制を
                 朝日新聞、2000年9月18日


 このところ原油価格が上昇を続けており、この1年半余りで3倍にも跳ね上がったそうである。この急騰は、石油多消費国に限らず、財政難に悩んでいる国、特に発展途上国にとっても大きな打撃になりそうである。

 この上昇の原因として、単純には需要の伸びに供給が追いつかない需要過多の傾向が考えられるが、朝日の社説でも「需要増という面だけでは説明できない」と述べているように、どうもそういう需要供給の関係ではなさそうである。
 そして朝日の社説は、

> 有利な運用先を探し回るヘッジファンドのような巨額の国際投機資金が、
>原油の先物市場に流れ込んでいる。まるで小さな池の中で象が暴れるような
>ものだ。

> 投機マネーは、石油輸出国機構(○PEC)加盟国間の不協和音やハリケ
>ーン来襲での米国の在庫ひっ迫などをはやして、相場をつり上げる。
 と分析している。おそらくその通りだろう。価格が大きく変動するものなら何でも投機の対象にされる。自由経済社会を標榜する限り、これはある程度致し方ないのかも知れない。

> 原油や石油製品の値上がりは、世界経済の混乱要因になる。ようやく立ち
>直り始めた日本経済にとっても警戒すべきことだ。
 朝日が警告を出すまでもなく、原油価格の急騰で手痛い打撃を、1973年の第一次オイルショックと79年の第二次オイルショックの2回も経験しているから、十分承知している。

> 米国経済はいま、安定成長軌道にソフトランディングできるか、の微妙な
>段階にある。8月の消費者物価は前月比で下落したが、全体としてはなお上
>昇基調だ。石油の値上がりで、景気の実態が求める以上の金融引き締めを迫
>られれば、失速の懸念すら出てくる。

> 運送業者らのデモが広がった欧州では、政治問題に発展した。ユーロ安が
>原油の輸入価格を押し上げ、それがさらなるユーロ安につながるという悪循
>環も招いている。

> 日本も安心できない。景気回復への期待などから円相場が堅調なこと、石
>油会社の過当競争から石油製品価格への転嫁が進まない、といった事情がク
>ッションになっている。
 このように、原油価格急騰による日米欧での経済に与える影響を分析している。この通りだろうが、困ったものである。しかし、第一次オイルショックから20年近くも経過した今もって、世界の経済構造が原油価格に大きく左右されるほど脆弱なことこそ、実に困ったものといわざるを得ないのである。

> 二度の石油ショックに揺れた1970年代以降、日本の一次エネルギー供
>給の中で石油の比率は低下してきたが、いまも半分を占める。新エネルギー
>の導入促進や省エネルギーの推進の手を緩めてはなるまい。
 わが国の一次エネルギーの石油依存度は、1970年代以降、一度は下げてきたが、最近は半分どころか元に戻してきつつある。これは、石油代替エネルギーのエース、原子力の栄華盛衰により、石油依存度が下がったり上がったりしているからである。決して省エネの頑張りや新エネの台頭が石油依存度を押し下げてきたからではない。

> 日本エネルギー経済研究所によれば、世界の原油の供給量は消費を上回っ
>て推移しているという。そうであれば、思惑や投機の動きがはげれば急落す
>る可能性もある。
 「世界の原油の供給量は消費を上回って推移している」と分かっていながら、原油価格の急騰の原因が「思惑や投機」と考えるのは「木を見て森を見ない」の例えに当てはまるのではないだろうか。

 第二次オイルショック以降、原油価格は湾岸戦争まで下降傾向で推移した。「逆オイルショック」と称されたこともあった。これは、他でもなく原子力開発の頑張りがあったればこそなのである。

 ところが最近の原子力の状勢は、ドイツの政権が国内19基の原子力発電所を今後32年までに運転を中止するというネガティブな政策を打ち出したり、優等生だといわれたフランスは頭打ちだし、日本は相次ぐ不祥事で逆風が吹き荒れている。

 こうなってくると、地球温暖化ガスを排出するエネルギー資源とののしられようと、原子力という対抗馬が自分から転けてくれたのであるから、数倍に値上げしたって消費が落ちることはない、とOPECのリーダー達が高笑いをしていると想像しても、「当たらずと雖も遠からず」ではないだろうか。

> G7の対応が、「懸念の共有」というお定まりの言葉を声明に盛り込むだ
>けでは困る。ヘッジファンドの取引に関する報告義務の徹底など、対応策を
>検討すべきだ。
 「懸念の共有」という決まり文句だけでも困るが、「ヘッジファンドの取引に関する報告義務の徹底」程度の対応策の検討でも困るのである。石油に左右されないエネルギー戦略の検討こそ重要なのである。

 石油代替エネルギー−−−省エネでもいい、自然エネでもいい、あらゆる角度から検討するべきである。

 そうすると、少なくとも当面は原子力に頼る以外良案がないことに行き着くだろうと信じて疑わないのである。その結論が出るまで、優秀な技術者を確保しておけるかが、次なる原子力界の課題ではあるが・・・。

 全体を読み直してみると、この社説は「異議あり」のようにも取られるかも知れないが、「原油価格の急騰問題に注目すべき」という大筋はやはり「同感」なのである。

      「G研」代表