「日本経済新聞」2000年8月8日
> [シカゴ7日=千葉研]米国で電力不足の懸念が強まっている。長引く好 >況や猛暑で需要が急増する半面、規制緩和による競争激化で電力会社が投資 >負担の膨らむ発電所の新設を控えているためだ。全米で初めて電力小売りを >自由化したカリフォルニア州では、需要増に供給が追いつかず一般世帯向け >の電力料金が急騰している。米国全体でも発電能力とピーク需要の差は縮小。 >これから電力自由化を実行に移す州でも供給不足が表面化する恐れが出てき >た。この前文に対する我々のコメントは前ページに書いていますから、参照して下さい。
> 需要も急増 加州で小売価格高騰 > カリフォルニア州は1998年3月、発電会社が電力卸売取引所(PX) >に電力を販売、送配電を受け持つ会社がPXで電力を市場調達する仕組みを >導入した。発電と送配電を分離して新規参入を促し、料金を競わせる狙いだ >ったが、発電分野での参入が進まず、隣接州の供給余力も低下しているとこ >ろに、7月下旬以降、猛暑が到来したため供給不足が表面化した。この新しい仕組みをカリフォルニア州が導入したのが1998年3月ですから、わずか2年でこの自由化による不具合が表面化したことになります。
> PXの卸売価格は5月の1メガワット時30ドル以下から8月初旬に一時 >300ドルに急騰した。サンディエゴ・ガス・アンド・エレクトリックの一 >般世帯向け電力料金は5月の月額平均50ドルから7月は100ドルに上昇。 >同社は「州は発電所の建設促進策を講じず、自由化が本来の競争につながら >なかった」と指摘している。1メガワット時は1000キロワット時(kWh)です。今年の5月の卸売価格が30ドルだったのが8月には10倍の300ドルに跳ね上がっています。一般消費者向けの電気代も2倍に急騰しています。これを異常自体といわないでなんと言えましょう。こうなった原因について、サンディエゴの電力会社のコメントが如実に表現しています。「州は発電所の建設促進策を講じず、自由化が本来の競争につながらなかった」と。
> ピーク時の需要に合わせて発電体制を組む日本の電力会社と違い、米国の >電力会社はもともと経済効率性を重視し、必要以上の供給余力を確保するた >めの投資は避ける。猛暑などで電力需要が急拡大すると電力不足に陥り、停 >電したり電圧を下げて対応することもある。しかし、ここに来て需要が急増 >する半面、供給が増えないために需給のひっ迫は深刻さを増してきた。日米間の電力会社の供給における経営姿勢の違いを述べています。しかし、日本の既存の電力会社とて、競争が進めば夏場のピーク時に合わせた需給戦略などは放棄せざるを得なくなり、需給が逼迫することは火を見るより明らかです。
> エネルギー省によると、総発電能力と夏場のピーク需要の差は90年の >19万メガワットから99年の10万メガワットに半減。同省は発電所の新 >設が進まない東部や需要が急増する太平洋岸州の電力不足を懸念している。総発電能力(A)と夏場のピーク需要(B)との差(A−B=C)のそのピーク需要に対する率(C/B)を「供給予備率」といいます。発電能力に余力がどのくらいあるかを見るには供給予備率が最も適した値です。で、アメリカのケースで「差」が半減したということは、「予備率」も半減したということですから、これは大変深刻な問題といえましょう。
> 州政府命令や州法で電力自由化を決めたのは全米25州。中には隣接州と >結ぶ送電線の整備が不十分だったり、送電線利用に制限があったりする例も >ある。こうした地域で規制緩和を進めると、カリフォルニア州と同じような >問題が起きかねない。アメリカの電力事業のような公益事業の規制は、連邦政府の管轄ではなく、概ね州政府に任せられています。ですから、電力の自由化も州によって既に踏み切った州と、未だ踏み切っていない州があるわけです。ただ、陸続きですから、踏み切った州の電力供給が逼迫すれば、隣の州で未だ踏み切っていなくて供給にゆとりがあれば、融通してもらえるのです。ところが島国・日本が全国で自由化に踏み切った後、数年後にこのアメリカのような事態になっても、海を隔てて融通してくれるところはありません。
> 自由化の遅れた州でも電力不足の懸念がある。フロリダ州は州外の電力会 >社が発電事業に参入するのを禁じているが、将来の自由化を見越して既存の >電力会社の設備投資意欲は鈍い。このため同州の電力卸売価格はカリフォル >ニア州を除いて全米最高水準に上昇している。エンロンのスティーブン・キ >ーン執行副社長は「こうした地域では、需要が急増したり自由化を迫られた >時、需給や価格調整機能が働かずに混乱を招く可能性がどこよりも大きい」 >と指摘している。自由化を日本全国で一斉に踏み切ったのですから、アメリカのように自由化先行州と遅れた州との差を見ることはできません。ということは、スタートしてしまった自由化を撤回する決断が遅れる可能性があるということです。また、日本の場合、経済が低迷して、電力の需要が急増する可能性が薄い時期に自由化に踏み切りましたから、アメリカのように自由化後2年でその影響が表面化する可能性も低いでしょう。それだけ修正・撤回の決断が遅れるとも懸念されます。