本年(2000年=平成12年)3月から、日本でも大口需要家向け電力の小売り自由化が開始されました。そして、8月10日、この電力自由化の推進行政府である通商産業省の本省ビル電力調達の競争入札が行われ、それまで供給してきた東京電力が負け、電力ビジネスに新規参入したばかりの三菱商事の子会社「ダイヤモンドパワー」が落札に成功しました。
大方のマスコミは、「既存の電力会社による中央官庁への独占供給体制に風穴を開けた意義は大きい」と、概ね歓迎の意を表明しています。しかし、果たしてそうでしょうか。
そもそもこの電力の自由化の発想は、電力の販売にも競争原理を導入して、少しでも安い電力を供給し、日本経済に反映させようとして導入された制度です。つまり、戦後一貫して日本列島を9分割し(沖縄が復帰後は10分割)、それぞれの電力会社が独占的に配電(配給・販売)してきたが、このままでは電力価格が下がるのは望めそうもないから、やはり自由経済の基本−−競争原理を導入しよう、ということでした。
この自由化による競争原理の導入は、それによって本当に価格が下がれば、消費者にとっては好ましい制度でしょう。しかし、「無益な競争」だってあるのですから、必ずしも好ましい方向に向かうとは限らないと、反対の意見を主張する人も少なくありませんでした。
とくに、我々のような原子力関係者は、この電力の自由化には疑義を唱えてきました。その理由は、次のような項目が挙げられます。
1)火力発電所のような投資期間の短い発電所のみに集中して建設が進み、 安全規制が厳しく周辺住民の説得にも年月がかかって投資期間(=準備 期間)が長い原子力発電所などの建設を積極的に進める企業がなくなる。 そうなれば地球温暖化も進む方向に行くだろう。 2)自由化せずとも、元の価格設定に見直すゆとりがあるとするなら、電力 事業の合理化や原価の安い燃料の確保などで価格を下げる方法は別にあ る。つまり、日本の電力事業は公益事業として、電力コストを審議・許 可する公的な機関があり、そこで競争原理よりも厳しくチェックするこ とが可能だからだ。 3)規制を緩和して自由化すれば、電力ビジネスに新規参入する事業者の中 には無責任な企業も出てこようが、それを事前にチェックする方法がな い。したがって、安価だけを追求する挙げ句、高品質の電気の安定供給 という、それまで公益事業者として電力事業者に科してきた最も重要な 義務は薄らいで行くと懸念される。こういった理由を掲げ、疑義を唱えてきましたが、努力の甲斐も虚しく、自由化の制度は、電力の卸と大口需要家向けの小売りに当面限定したとはいえ、スタートしてしまいました。一般家庭向けの小売りもいずれ自由化されるかも知れません。
この電力の自由化は、ドイツやイギリス、アメリカなどの先進工業国が、日本に先立って導入していましたから、世界の趨勢からは日本もいずれ導入せねばならない時期に来ていたことは確かです。しかし、エネルギーは、それぞれの国の事情−−例えばエネルギー資源の有無などによって、その国の需給戦略が立てられるものですから、外国に見習ってばかりいても事がうまく運ぶものではありません。
こういった我々の懸念をまさしく現実のものとする記事が、通産省の電力調達の入札が行われた日のわずか2日前の8月8日、その日の「日本経済新聞」朝刊に掲載されました。
「米で電力不足懸念」「競争激化で各社投資抑制、発電所新設進まず」という見出しが、経済面トップ、9段抜きで出ていました。日経としてもかなり重要視した扱いです。
この記事の前文には、「米国で電力不足の懸念が強まっている。長引く好況や猛暑で需要が急増する半面、規制緩和による競争激化で電力会社が投資負担の膨らむ発電所の新設を控えているためだ」と、はっきり電力不足気味の原因を分析しています。また、「全米で初めて電力小売りを自由化したカリフォルニア州では、需要増に供給が追いつかず一般世帯向けの電力料金が急騰している」と、自由化の思惑が、実施後わずか2年足らずで逆行している実例を報じています。
「米国全体でも発電能力とピーク需要の差は縮小」ということは、電力供給予備率が低下していることを意味しています。供給予備率は8%以上あればまずは大丈夫とされていますが、日本の電力会社10社合計の今年の夏の供給予備率は12.4%として準備万端整えてきました。
前文の最後は、「これから電力自由化を実行に移す州でも供給不足が表面化する恐れが出てきた」と、安易に電力の自由化に踏み切ろうとすることに明確な警告を発しているのです。
エネルギー関係でこれほど重要な記事が、日本の日刊紙に掲載されたことがかつてあったでしょうか。我々の記憶には定かではありません。重要なるがゆえ、記事の全文を次のページに転載させていただきます。また、本文を忠実に読んでいただければあまり必要とは思いませんが、我々のコメントは各パラグラフ毎に簡単に書いておきます。