「電気新聞」<時評>

  「慎太炉設計のすすめ」

    石川 迪夫(原子力発電技術機構特別顧問)

 4月26日に行われた原子力産業会議の年次大会で講演した石原慎太郎東京都知事は、こういう話しをされたそうである。

「エネルギーの確保は東京にとって大事な問題。気候に左右されるのは心もとないし、外国に頼るのは国家の安危に関わる。安全な管理が行われるのであれば、原子力発電所を東京湾に設置しても良い」

 この知事の講演に対し、我々の大先輩の石川さんは、

> このニュース、電撃のように原子力界を駆け抜けた。JC○事故以来暗い
>話つづきの原子力界にとって嬉しい励ましだ。皆が元気づけられたのだ。僕
>が聞いたのが昼過ぎ、満面笑みをたたえての注進であった。だがこの話、生
>僧の大型連休で、何となく気が抜けてしまった。原子力界はフォローアップ
>せねばなるまい。放って置いては罰が当たる。知事の発言に乗って、東京湾
>に原子力発電所を設置するための設計検討を始めたらどうか。
 いまの原子力界、都知事の「励ましの講演」くらいではなかなか元気が出ない。石川さんでなくとも、この講演から一気呵成に「東京にも原発を」と行きたいところだが、「もう少し静かにしていたい」というのが原子力関係者の本音ではなかろうか。

 だからといって石川さんのご意見に異議を挟むものではなく、むしろ「同感できる」ご意見には違いなく、電気新聞の読者だけでなく、広く一般国民の方々にも、よく知っておいてもらいたい。

 知っておいていただきたいその第一は、石原慎太郎・東京都知事は、日本に原子力開発は必要と思っていらっしゃるということ、第二は、石川さんに代表される原子力関係者は、東京に原発なんてもってのほかと考えているのでは決してないということ、である。

> これまで反対派から、安全ならば東京に原発を作れと、幾度となく揶揄さ
>れたが、我々は返答できなかった。都心に原子力発電所を設置するに相応し
>い空地はないし、東京湾内での設置などを言い出そうものなら、折角話を進
>めている候補地への影響が計り知れないためであった。このタブーを知事は
>破って呉れたのだ。今日からは、晴れて海上立地の検討を始められる。
 原発の万一の事を考え、過疎地に建設してきたのではない。火力のように、ほとんど毎週、大型タンカーが横付けできる良港が必要不可欠というような制約は原発立地にはなく、単に海に面した所で強固な地盤だけがあれば、何処にでも建てられるのだ。だから、原発は発電という目的以外に地元に莫大な経済効果が見込めることから、地域開発にも主眼をおいて立地を選択する方が一石二鳥を狙えるというものである。

 このような理由から、原発をあえて大都市周辺に建てることを見合わせてきたが、その首長や住民の方々がお望みなら、前向きに検討してみる価値は十分あるだろう。

> 原子力発電所の海上設置は技術的に難しいものではない。既に、原子力船
>「むつ」が許可された実績があり、原子力空母が横須賀に寄港する現実を考
>えれば容易に理解できよう。だが、法的に言えば、陸上発電所を対象とした
>現行の立地指針は使えない。検討はこんな基本的なところから始めねばなら
>ない。実現すれば世界最初の海上発電所となるのだ。世界中の関心が集まり、
>世界中から注文をつけられることは確かだ。
 しかし、「東京湾に原発」を検討するにしても、早々と陸上立地を諦め、海上のフローティングサイトに絞って検討することはないと思っている。確かに技術的に難しくはないかも知れないが、とにかく1基でも大都市に原発を建てることを考えると、現行の指針から変更せねばならないような計画はいずれという事で、既に運転してる改良型BWRのような発電炉を採用し、それがある柏崎刈羽の立地条件に見合った土地を東京周辺に探してはどうだろう。

 たとえば、東京電力の横須賀火力、横浜火力、川崎火力、富津火力、五井火力・・・、東京湾周辺には火力発電所が林立している。これらの一つを原発に変更してもいいではないか。岩盤までの掘り下げを少し深くするなら、江東区の埋め立て地でも結構敷地はある。

> 知事は設置の前提として、「安全な管理」を述べている。知事のいう「安
>全な管理」とは具体的に何であるのか、この解答を引き出す好機だ。この解
>答こそは、昔から言われながら探求できないままでいる安全目標に相当する。
>我々の設計が進み、発電所の価格やリスクが明らかになるにつれて、東京都
>民が要求する安全目標もまた具体化していくことにつながる。これは大きな
>進歩だ。
 How safe is safe enough? (どの程度安全なら十分安全と言えるのか)という禅問答が、この原子力の安全性を巡って以前から続けられてきた。「少なくとも臨界事故は絶対起こさない安全性」といわれれば、原子力技術者として反論のしようもないが、一般的なシステムの「安全とリスク」について徹底して議論していただきたいとかねがね思っていた。問答無用、とにかく恐い、原子力関係者は信用ならない・・・では話しにならないだろう。

 だから、東京の原発建設計画が具体化する際に、この安全論争に決着をつけてもらいたいものだ。

> 「東京が動けば日本が動く」。石原知事が立候補に当たって表明された信
>念である。その信念に則って数々の大胆な施策を講じておられることは周知
>の通りである。知事の発言に応えて慎太炉設計を行なうことが、エネルギー
>問題について都民が真剣に論争する場を生み出す原動力となるとすれば、そ
>れは知事の政治姿勢にも合致するものであろう。
 その通りである。全面的にご同意申し上げる。

       「G研」代表