日本経済新聞(2006年2月9日)

<社説>

       原発需要の高まり映す東芝のWH買収

<その1>


 インド、中国といったかつての途上国で人口大国の急激な経済発展に伴うエ ネルギー需要の急増、それに原油生産国である中東の相変わらずの政情不安定 などの理由で、原油価格の急騰や地球温暖化がますます進んできているという、 偽らざる現状がある。

 原油価格の安定化と温暖化の阻止には、原子力開発に期待せざるを得ないと ころまできているというのが、世界のエネルギー・環境に取り巻く正しい判断 といえよう。

 こういう時期にあって、我が国の原子炉メーカーの一つである東芝が、かつ ては、ゼネラルエレクトリック(GE)と並んで世界の原子炉メーカーの双璧 と称せられたウェスチングハウス(WH)を買収したというニュースは、世界 の原子力関係者には大きな驚きであった。

 しかし、我々日本の原子力関係者にとっては、今回の東芝の快挙に対し、最 大級の喝采を贈るものである。

 アメリカ国内だけでもGE、WHの2大原子炉メーカーが合わせて約100 基もの発電用原子炉を建設してきた。それがスリーマイルアイランド原子力発 電所の事故を境に、当時のカーター政権の及び腰にも影響され、衰退の一途を 辿らざるを得なくなった。

 原子力に限定しない多角経営で大きく伸びたGEはアメリカ国内にあって現 在も健在だが、原子力事業を突出させて突っ走ってきたWHは、原子力事業を 手放さざるを得なくなった。

 イギリスの核燃料会社(BNFL)が1978年以来、WHの原子力事業を 継続してきたが、ここも手放さざるを得なくなり、激しい競争の結果、東芝が 総額54億ドル(約6千400億円)で買収に成功したというのだ。

 日本には東芝の他、日立、三菱重工と原子炉メーカーが3社も存在する。事 業展開が海外にまで広げることができれば、3社でも多いとはいえないが、日 本のメーカーは国内に限定して難しい原子力事業を展開してきたのである。

 例えば、原子力発電プラントを中国に輸出しようとするには、日中両国間に 原子力平和利用に関する協力協定が締結されていなければならないのだ。とこ ろが日本の関連行政府は、プラントを輸入したいとする原子力遅発国とは協力 協定を締結しようとせず、締結するのは、アメリカ、フランス、イギリスとい った原子力先進国に限定してきたのである。

 このような日本国内に限定した事業活動で、原子力産業が発展させることは 極めて難しい。ところが日本のメーカーはとにかく今日まで生き抜き、発展さ せてきたのである。政府の協力などにはあまり期待せず、無駄なメーカー間の 競争はできる限り排除して、電力業界をはじめ民間の業界とのみ緊密な協力関 係を維持してきたところに並々ならぬ努力があったのである。

 今回紹介する日経新聞の社説に書かれていることは、いちいちもっともであ る。

 「東芝のWH買収には難しさも残っている。まず、買収成立には米政府の承 認が必要で、WHと長年提携関係にあるPWR陣営の三菱重工との関係も不透 明。買収価格が当初予想の2倍程度に膨らんだことも大きな負担だ」

 と、今回の買収劇の後の問題を列挙しているが、我々はそれほど難しい問題 とは考えていない。

 米政府の承認に関しては、東芝はBNFLより発電プラントの建設に関して は多くの経験を積んできたし、また原子力産業という国家の協力体制にしても、 日本はイギリスより上である。それよりも何よりも、引受先が何処であれ、W HのPWRを見殺しにはできないだろう。

 PWR陣営の三菱重工との関係だが、いまやPだBだと競い合っている時代 ではなくなりつつあり、日本の3原子炉メーカーが一緒になって、少なくとも アジアの国々の原子力開発計画を全面的にバックアップする時代にさしかかっ ているといえよう。したがって、今回の東芝によるWHの買収は、世界の原子 力事業の新しい時代の幕開けであり、そこに日本の原子炉メーカーが一丸とな って花道を出ていくという力強い宣言でもある、と考える。

 買収価格が予想より2倍にも膨らんで、高い買い物と見る向きもあるが、そ の6千400億という買収額は、考えてみれば、100万キロワットクラスの 原発、約1.5基分の建設コストに匹敵する額だ。今後30基の建設計画があ るという中国から、その半分程度の15基も受注すれば元は取れるだろう。

 「東芝がそうした問題を乗り越え、日本の原子力産業を活性化させることを 期待したい」

 本当にその通りである。

             「G研」代表

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