十市 勉(日本エネルギー経済研究所理事)
出典:朝日新聞(2000年1月25日)
「ミスターエネルギー」こと、日本エネルギー経済研究所の十市勉(といち・つとむ)理事は、また、実に示唆に富んだ提言を朝日の「論壇」に書いてくれています。
論旨には、アラビア石油の利権更新問題を巡って、先日のサウジアラビアとの政府間交渉の難航に関して、日本政府が取るべき対応の提案が含まれています。
中でも、利権更新の見返りにサウジがわが国の政府に突きつけている条件、つまり鉱山鉄道の建設や原油購入量の大幅な拡大に対して、「わが国政府が応じられる範囲を超えている」と明言しているところは特記すべきでしょう。
そして具体的な対応策として、
[三段目の最後から四段目にかけて] > このようなサウジとの一連の交渉経緯から痛感されるのは、中東産油国と >もう少しバランスのとれた関係を築くことの重要性である。余りにも一方的 >な依存関係を続けることは、相互不信感を生み出す原因にもなるからだ。そ >の意味で、産油国に対するわが国の交渉力を強化するため、エネルギー対策 >および資源外交の両面で総合的かつ戦略的な取り組みが不可欠ではないだろ >うか。こういう考えは、私どもエネルギーの専門家の間ではいたって「常識」なのですが、マスコミをはじめ一般国民の中にはなかなか浸透していかない課題の一つといえましょう。再認識していただきたいその「常識」を箇条書きしてみますと、
●中東の中でサウジとの関係を従来は最も重視してきたが、これからは他の 中東諸国ともバランスよく付き合うべきだ。 ●原油の輸入相手国に日本は余りにも一方的に依存しているが、これからは 向こうからも依存されるという相互依存の関係が望ましい。 ●問題を単なる石油確保といった一面性で捉えるのでなく、日本のエネルギ ー対策や資源輸入の相手国との重要な外交を総合的に考えなければならな い。 [四段目] > その点で参考になるのは、来日する多くの中東産油国の関係者が強い関心 >を示す三つのテーマである。すなわち日本の原子力、サハリンなど極東ロシ >アの資源開発、東アジアのエネルギー市場の動向である。わが国の政府と企 >業は今後、それぞれの役割分担を明確にしながら、次のような課題に取り組 >む必要がある。中東諸国にとって、最大の石油輸入国、日本と日本を取り巻く極東の資源開発状況が気になるところでしょう。つまり、日本の中東への依存度が下がれば、交渉の度合いを緩めなければなりません。日本の原子力開発がうまくいき、石油への依存度が下がりはしないか、日本の近場から石油の調達ができるようになり、中東への依存度が下がりはしないか、こういった情報は彼らにとって最も重要なもので、日本との外交交渉において最大の武器と考えていることは間違いありません。
[五段目] > 第一に、相次ぐ事故で損なわれた原子力への国民の信頼回復に全力を挙げ >ることで、産油国に対する有効な対抗力としで原子力が果たしている役割を >堅持すべきである。一九九八年度のわが国エネルギー供給の五二%は依然と >して石油が占め、その八六%、すなわちエネルギー供給量全体の半分近くを >中東石油に依存しているからである。アラビア油田の利権更新交渉で、サウジがなぜあのように強気で押してきたのか、最近の原油価格が何故高騰してきたのか・・・、これらはすべてわが国の原子力開発の低迷に関わっているのです。関係者は、この十市さんの「原子力への国民の信頼回復に全力を挙げることで、産油国に対する有効な対抗力としで原子力が果たしている役割を堅持すべき」というご助言を肝に銘じておくべきでしょう。
「G研」代表