WEDGE(NOVEMBER 2004 Vol.16 No.11)

「羅針盤(26)」=============市川祐三(日本鉄鋼連盟専務理事)

    議定書発効で浮上する環境税、

    実効性ある温暖化対策を

(その2)


●6%の排出削減義務、民生・運輸が大きな足かせ           
                                  
 現在、地球温暖化をめぐる国際環境は、厳しい状況に置かれている。最 
大の二酸化炭素排出国で、世界全体の約4分の1を占める米国のブッシュ 
政権は、2001年3月に京都議定書からの離脱を表明し、以降、技術開 
発と2国間協力を柱とする独自路線を歩んでいる。また、対抗する民主党 
ケリー大統領候補も、「目標達成はもはや不可能」として、すでに京都議 
定書を批准しないとの考えを明らかにしている。            
                                  
 また、米国に次ぐ排出量をもつ中国などを含めた途上国は、削減義務を 
負わないことから、現状では合計で世界の二酸化炭素の排出量の過半を占 
める上位5カ国(米、中、露、日、印)のうち、世論の後押しを受けたわ 
が国だけが議定書に基づく排出削減義務を負うことになっていた。    
                                  
 このような状況下、自国の利益につながると判断したロシアが批准に向 
けて大きく歩み寄り始め、京都議定書が発効される見通しが高まった。し 
かし、正式にロシアが批准、参加した場合でも、削減義務を果たす国は、 
世界の排出量の3分の1をカバーするにとどまる。           
                                  
 議定書で義務づけられた日本の排出枠は、基準年(1990年)比で6 
%減である。これを2008年から2012年の約束期間内に達成しなけ 
ればならない。                           
                                  
 現状はどうか。排出量の半分を占める産業部門では、日本経団連傘下の 
企業が自主行動計画に基づき着実な削減努力を続けており、直近のデータ 
では、同部門全体で基準年比マイナス1.7%の削減を達成している。し 
かし、排出量の残り半分を占める民生(ビル・学校・家庭等)・運輸部門 
は、増勢に歯止めがかからず、90年と比較すると2〜3割の増加傾向に 
あり、わが国全体の目標達成の成否を握る重要なカギとなっている。   
                                  
 本年度は、排出削減に向けた進捗状況を見極める第一ステップ期間の最 
終年度に当たることから、政府は、現行の温暖化対策大綱を見直すと同時 
に、必要な追加措置を決定しなければならない。            
                                  
 現在、関係する各審議会で対策が練られている中、中央環境審議会では、
主な施策の一つとして「環境税」の導入を提起している。        
                                  
 その趣旨の第一は、化石燃料等に対し炭素1トン当たり3400円程度 
を課税し、その価格上昇によって消費を抑制しようというものである。次 
に、約1兆円が見込まれる税収を財源として省エネ設備・機器の普及や森 
林吸収源等の温暖化対策を充実させ、目標達成を図るとしている。すでに 
環境省は次年度税制要求において、この「環境税」の創設を図ろうとして 
いる。                               
 ここで市川氏は、重要な情報を列記している。その一つ目は、

 「対抗する民主党ケリー大統領候補も、「目標達成はもはや不可能」として、すでに京都議定書を批准しないとの考えを明らかにしている」

 京都議定書を取り決めたときのアメリカの政権は民主党のクリントンだった。その議定書から脱退したのは、民主党のゴア候補に勝って大統領に就任した共和党のブッシュだから、先の大統領選挙で民主党のケリー候補がブッシュに勝っていれば、京都議定書の再加盟を表明するのではないか、と期待する向きもあった。

 しかし、事実は、例えアメリカの政権がクリントンと同じ民主党になっていても、もはや京都議定書を批准することはなかったのである。しかも、民主党も、ブッシュの共和党同様、「京都議定書」のやり方では、「目標達成はもはや不可能」と冷ややかに見ているのである。

 市川氏が指摘する重要な情報の二つ目は、

 「排出量の半分を占める産業部門では、日本経団連傘下の企業が自主行動計画に基づき着実な削減努力を続けており、直近のデータでは、同部門全体で基準年比マイナス1.7%の削減を達成している」

 経済活動を大きく分割すると、産業、民生、運輸の3部門である。この中でいつも「悪の巣窟」のように槍玉に挙げられるのが産業部門だ。未だに環境を犠牲にして利潤を追求していると見られているのだろうか。

 しかし、自然環境も人々の福祉も、産業部門の健全な経済活動から得られた潤沢な資金があってこそ守ることができるのである。したがって重税で経済活動を疎外してはならないのである。

 環境省は、「環境税」の導入により得られる税収を省エネと自然エネルギーの開発に当てようとしているようだが、これでは「焼け石に水」で効果は期待できない。

 「京都議定書」から離脱したアメリカは、「技術開発と2国間協力を柱とする独自路線」で地球温暖化を阻止しようとしている。この技術開発の柱は、原子力発電の開発であることはいうまでもない。

 市川氏が指摘する重要な情報の三つ目は、

 「現状では合計で世界の二酸化炭素の排出量の過半を占める上位5カ国(米、中、露、日、印)のうち、世論の後押しを受けたわが国だけが議定書に基づく排出削減義務を負うことになっていた」

 アメリカはすでに離脱したから「蚊帳の外」。中国、インドは「削減には及ばず、増やしてもお構いなし」。そして、ようやく批准したロシアは「削減できなくとも増やさなければよい」。よって二酸化炭素排出量上位五カ国の内、今後、あらゆる努力をして減らさなければならないのは日本だけ、ということになっている。

(次ページに続く)