多事多難で明け暮れた1999年、それも最後の12月31日、この日の朝日新聞「論壇」に、「組織事故防止に心理学活用を」と題して、社会心理学者で北九州大学教授の山内隆久先生が投稿されていた。

 「組織事故」という馴染みの薄い言葉に、われわれのうちの数人が注目した。もっとはっきり白状すると、「事故」という言葉に過剰反応を示すようになっていたのである。「事故」「アクシデント」・・・心臓に響く言葉だ。

 この論壇に書かれた山内先生のご意見を拝見していくと、なかなか示唆に富んだ内容で、同感できるご意見と衆議一決でここで取り上げさせていただくことにした。

> 1999年は「組織事故の年」ではなかったか。1月に横浜市立大学病院
>で手術患者の取り違え事故が起きた。その後も2月に東京都立広尾病院で消
>毒剤の誤注入、7月に杏林大学病院で頭部に刺さった割りばしの見落としな
>ど、患者が死亡する医療事故が報道された。JR山陽新幹線のトンネルでの
>コンクリート落下事故や、茨城県東海村での臨界事故も国民にショックを与
>えた。
 ウラン加工工場の臨界事故も、病院の医療事故やトンネルのコンクリート落下事故と並び、堂々と「組織事故」の一員に加えていただいている。

> これらの事故は原因や影響が組織全体にわたる「組織事故」である。組織
>事故の調査は「責任追及」のためにだれがエラーを犯したかを調べで処分す
>るのでなく、組織の問題点を明らかにする「原因究明」の調査でありたい。
 「魔女狩り」はマスコミ請けするのか、組織の長を辞任に追い込むことに躍起となるのが常である。その長や幹部の責任を追及するあまり、肝心要の「原因究明」の調査がおろそかになることもあり得る。

 組織としては、同じような事故を二度と起こさないようにあらゆる原因を究明し、それぞれの対策を念入りに講じたいのだが、マスコミとしてはそんなことはお構いなしかのように思える。山内先生のご託宣は、マスコミなどに踊らされて、「責任追及」のあまり「原因究明」の調査をおろそかにしてはならない、という有り難いご忠告である。肝に銘じたいところだ。

>しかし、従来の調査は個人のエラーや技術的問題に主眼を置き、組織全体が
>リスクを拡大し安全システムを外してしまう心のプロセスを明らかにしてい
>ない。そこで集団や組織に関する心理学の研究知見を活用することを提案し
>たい。
 そういう過ちを犯さないためには、「心理学の研究知見」を大いに活用しなければならない。

> コンクリート落下事故と臨界事故の共通点は、組織幹部が本来の設計や正
>規のマニュアルとは異なる手抜き工事や裏マニュアルを指示・容認している
>ことだ。現場作業員も組織の効率優先に従い働いていた。医療事故の場合も、
>その多くに組織的な「ルール違反」や情報伝達の失敗が見られる。
> いずれの事故の背景にも、社会心理学の研究で明らかにしてきた集団の心
>理過程がある。
 山内先生のような心理学者にかかれば、今回の事故の関係者から直接聞き取り調査などをされたかのように、「組織事故」を引き起こす過程などの分析は的確である。それだけ多くの「組織事故」には共通するところが多いのであろうと思われる。それにしても気を付けなければならないのは、組織的なルール違反と情報伝達の失敗である。

       <つづく>