
植物が枯れて腐敗すると二酸化炭素(CO2)を出し、葉が茂ると吸収する。海も季節や温度によってCO2を大気中に放出したり吸収したりする。かつては、年間千数百億トンにものぼると大気と地球表面とのCO2収支はバランスがとれ、産業革命以前の一万年の間、大気中のCO2濃度は一定だった。
ところが、人間が化石燃料を大量に掘り出して燃やし始めたため、自然界の微妙なバランスが崩れ、CO2濃度が上昇し始めた。
「ミッシング・シンク(見落としている吸収源)」という言語が2、3年前まで研究者の間を飛び交っていた。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、1980年代の平均で、人間は化石燃料の燃焼や熱帯林の開発で年間71億トンのCO2を放出している。うち、約33億トンが吸収されず、大気中にたまり続けている。
海は900億トンもの大気とのやりとりの結果、差し引き20億トンを吸収しているとは分かっていたが、残りの20億トン近くの吸収源は不明で、これがミッシング・シンクだった。
最近になって、炭素原子の同位体の追跡研究が進み、主に北半球の森林がCO2を吸収しているらしいと分かってきた。森林と大気とのやりとりは世界で年間600億トン以上だが、なぜ吸収が多くなるのか。
農水省農業環境技術研究所の袴田共之・地球環境研究チーム長は
などの可能性をあげる。
だが、それぞれの実測データはほとんどない。誤差が大きいのはこのためだ。
これを明らかにしようと、岐阜県高山市の岐阜大学流域環境研究センター高山試験地で、通産省の資源環境技術総合研究所と同大が93年から国内で初めて森林のCO2収支を直接測る実験をしている。
標高約1、400メートルの森の中の、27メートルの鉄塔の高さの違う4ヵ所で濃度を測り、濃度こう配と風速から、森のCO2収支をはじき出す。3年間の観測で、1ヘクタール当たり年間約1トンを余分に吸収していることが分かった。意外だったのは、冬の間、雪の下の土壌からCO2が放出されていることや、林床のクマイザサが、日射量不足で夏はCO2を放出していることだった。従来の収支モデルでは計算に入れていない発見だった。
一方、海の吸収メカニズムの解明もまだ不十分だ。太平洋を年8回往復している自動車運搬船スカグラン号(46、000トン)に国立環境研究所のスタッフが乗り込み、6時間ごとに海水と大気中のCO2量を測っている。95年3月以来これまでに20回の航海で観測した。
その結果、アラスカ湾西部、ベーリング海東部、カムチャッカ・千島沖の海で強く吸収する海域があること、吸収する海域と放出する海域が隣り合っていること、夏と冬の季節変動が大きいことなどが初めてわかった。同研究所の野尻幸宏・温暖化現象解明研究チーム総合研究官は「この船が測っているのは海水の表層だけ。深い場所の状態や変動の仕組みを探るのがこれからの課題だ」と話す。
これらが分かれば大気と海、陸の間での循環の正確なモデルができる。わずかな人為的なCO2濃度の上昇が循環システム全体に大きな影響を与える可能性など、温暖化予測の信頼性を上げるには、より多くのデータ収集が不可欠だ。
出典:朝日新聞/1997年9月30日夕刊