"部屋の乱雑度を表わす量"

地球上のエントロピーをひたすら増大して


 エネルギー問題の中でエントロピーという言葉を聞く。いやエントロピーを社会現象に当てはめる話さえある。この言葉、1854年にドイツの物理学者、ルドルフ・クラウジウス(1822〜88年)が論文で使ったのが初めだから、ずいぶんと古い言葉なのだ。熱の問題を扱う熱力学には有名な法則が第一から第三まである。第三はさておき、第一は、エネルギー保存の法則で「宇宙のエネルギーは一定である」と、第二法則はずばりエントロピーに関する法則で「宇宙のエントロピーはある最大値に向かって増大する」と、それぞれクラウジウスは述べている。

 大百科事典でも調べてみればわかるが、エントロピーをキッチリ理解しようとなると大変だ。大ざっぱにいえば、掃除をしない部屋の乱雑度を表す量と思えばよい。即ち、その部屋の乱雑度は増すばかり、となる。

 熱は、高温から低温へ一方的に流れ、その逆はありえない。つまり、低い温度の方から高い温度の方へ熱が流れることはなく、そうするためには何か外部から仕事をしてやらなければならないのだ。この一方方向への流れを、非可逆過程という。 

 したがって、外部から仕事が行われない閉じた系では「熱は使えない方向(乱雑さが増す方向)に非可逆的に一方的に流れ、使える熱が無くなって(これ以上乱雑にできない状態になって)、エントロピーは極大になり、平衡に達する」ということになるのだ。

 例を挙げると、熱いお湯と、ぬるいお湯とを別々の容器に入れてピッタリくっつけて置くと、熱は熱い方から低い方へ流れ、両方のお湯の温度が同じになった時に熱の流れは止む。熱的平衡に達したわけだ。熱は温度差がないと移動しないから、温度差がないと仕事をしないということができる。そして、熱を使って仕事をする場合にも常にこのエントロピーの法則が働くのである。ということで、新たにエネルギーを供給しないで動く永久機関は不可能ということになる。

 温度差をつくる(例えばお湯をわかす)には仕事が必要だ。仕事にはエネルギーがかかる。したがって、エントロピーは一方的にしか進行しないのだから、工場のボイラーで油などを燃やして出てくる廃熱を空気中に逃がしてしまうのはもったいないのだ。そうはいっても、それを利用する技術が進まないとどうにもならないのだが、省エネ意識の高まりで、廃熱の利用も進み出しているようだ。

 もちろん生物もエントロピーの支配下にある。植物は太陽の恵みを受け、せっせと新たに熱源となるものをつくり出してエントロピーを減少させている。そこで人間様は植物体あるいは植物がつくった物をせっせと食べる。植物を食べて育つ動物、あるいはその動物を食べて生きている動物も食べる。食物連鎖の頂点にいるといえば格好がいいが、地球上のエントロピーをひたすら増大させているのが人間といえなくもない。

(牧田 薫)