原子力とその周辺・質問と回答

        Book 2
          核燃料と廃棄物

               米国版(原版)編集: アメリカ原子力学会
               日本版編集: エネルギーと暮らし・市民の会

         はじめに

 わが国の原子力発電所は、現在(1985年6月)30基が動いており、その合計出力は 2,253万キロワットになっています。これは総発電設備容量の14%を超えています。1984年6月から1年間に、女川1号(宮城県)川内1号(鹿児島県)、高浜3号・4号(福井県)、福島第二・3号(福島県)の5基が完成し、営業運転を開始しました。昭和59年度の総発電量の中で、原子力発電は22.9%のシェアを占めました。そしてその原子力発電所を平均した稼働率は73.9%に達しています。これは、1年365日中、原子炉が止まっていたのが95日ということになり、何ら問題箇所がなくとも1年に1度は必ず3ヵ月ほど停止して定期検査を実施していますから、原子力発電所のトラブルによる停止がほとんどなかったことを意味します。かつては故障が多く、1年の内半分にも満たない運転日数であった頃から比較しますと、その信頼性向上における技術の進歩には格段のものがあったと見るべきでしょう。核分裂から得られる熱エネルギーから電気エネルギーに転換する技術・・原子力発電は、その実績の積み重ねにより高められてきました。そして、今や世界は、25ヶ国が原子力発電所を持つまでになりました。原子力発電所保有国の数は、2000年までに37ヶ国にはなるだろう、といわれています。

 このように原子力発電そのものの技術のみがいくら進歩しましても、それを補佐する技術が未熟なら、原子力の平和的利用技術が総合的に完熟したとはいえません。原子力発電所の基数がいくら増えましても、それを補佐する施設が未整備な状態なら、原子力発電のシステムが総合的に完備したとはいえません。その補佐する技術、補佐する施設とは、核燃料サイクルと放射性廃棄物に関連するものです。核燃料サイクルでは、特にそのダウンストリーム部分、つまり使用済み燃料の再処理とそこから分離される新しい燃料、プルトニウムの再利用に関する開発が、他の原子力先進国と比較して日本は遅れています。放射性廃棄物の処理処分技術の開発や、それらの施設の整備は、まだこれから、という状況です。

 「ようやく」という表現が妥当かどうかは解りませんが、昨年、濃縮、再処理、廃棄物処理、この3つの施設の建設計画が、青森県下北半島のむつ小川原工業基地内に、と立地点を具体化して打ち出されました。これら三施設が完成するまでには、まだまだ年月を経なければならないでしょうが、その時は、日本の原子力開発が大きく前進して、原子力発電の「準国産エネルギー」化を実現させることになります。

 しかし、これらの開発がうまく進展するかどうかは、もちろんこの開発に直接関わっている専門の人々の努力によるところが大ですが、私たち一般市民が技術に対して正しく理解することができるかどうかにもかかっています。電力業界が中心となって、「核燃料」という言葉から、核兵器とまぎらわしいとして「核」をとり、「原子」に置き換えて使うなど、国民の理解を得るための配慮が見られます。私たちもそういった関係者の努力にむくいるためにも、自分達で理解する努力が肝要と思います。

 「エネルギーと暮らし・市民の会」が、「アメリカ原子力学会(ANS)」のご好意を得てシリーズで発行している、「原子力とその周辺・・質問と回答」のBook1「放射線」Book4「代替エネルギー」に引き続いて、Book2「核燃料と廃棄物」をお届けします。先の2冊を翻訳・編集する時には、日本向きデータや図表に差し替えましたが、今回のBook2は、まったく原本通りにしました。この本から核燃料や廃棄物に対する正しい議論の輪が広がっていくことを願ってやみません。

  1985年6月

                     エネルギ−と暮らし市民の会
                     代表幹事 水 口  哲